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SBIG STL-11000M

SBIG STL-11000M STL-11000Mは、アメリカのSBIG社が製造していた、冷却CCDカメラ(天体写真専用カメラ)です。 撮像素子には、画素数1,100万画素の「コダック社製KAI-11000M」チップが使われています。

KAI-11000Mは、ピクセルサイズが9μx9μで、サイズが35mmフルサイズモノクロCCDセンサーです。 余裕があるピクセルサイズが生み出す豊かな階調と、 1,100万画素のモノクロセンサーの解像感とのバランスに優れた冷却CCDカメラです。

現在のデジタル一眼レフカメラには、5000万画素を超える機種もありますが、 モノクロセンサーは、カラーセンサーとは、また違った解像感を撮影者に届けてくれます。

私は、STL11000Mカメラを、2006年の中頃に購入して以来、愛用しています。 FLI製カメラに比べて、ノイズが多いとしばしば評されるSBIG製カメラですが、 SBIG製のカメラに慣れた私にとって使いやすく、安定して撮影できる冷却CCDカメラです。 世界中の天体写真ファンに支持されてきた安心感が、SBIG製冷却CCDカメラの美点でしょう。

STL11000Mの大きさ

STL用EOSマウント カメラ本体はとても大きく、同じSBIG社の冷却CCDカメラ、ST2000XMカメラよりも二回りほどの大きさです。 また、本体重量も2キロを超えますので、天体望遠鏡との接続には十分注意する必要があります。

丈夫な接眼部を有した天体望遠鏡に、しっかりとしたアダプターを使って接続する必要があります。 取付方法には様々な方法がありますが、最近は、天体撮影用オリジナルパーツを製造してくれ業者も存在しています。 こうしたお店に相談してみてはいかがでしょう。

私の場合、当初はST2000XMと同じように2インチスリーブを使用して望遠鏡と接続していましたが、 2007年の春にEOSマウントアダプターを手に入れ、それ以来はそのアダプター使って望遠鏡やカメラレンズと接続しています。

少々高価なアダプターですが、EOSマウントにカメラ接続後は、 ネジを使って3方向から固定できるので、しっかり固定することができます。 右上画像は、EOSマウントアダプターをカメラ本体に取り付けた状態です。

EOSマウントキャップが使用できるので保管にも便利です。 マウントアダプターの右下の銀色のものは、薄いアルミ板です。 CCD面とマウント部の平面性を調整するために挿入しています。

EOSマウントアダプターを使用すると、周辺減光が、2インチスリーブで接続したときよりも若干減少しました。 EOSマウントアダプターを使用すると、キヤノンのデジタル一眼レフカメラとほぼ同じフランジバック長となります。 従って、厳密な光路長を要求するコンバーションレンズ等を容易に接続できますので、 大変便利に感じています。下の画像は周辺減光の様子です。

フラットフレーム
左側はEOSアダプター使用、右が2インチスリーブ使用

内蔵型フィルターホイール

フィルターホイール 従来のSTシリーズと異なり、STLシリーズのカメラのボディには、フィルターホイールが内蔵されています。 撮像素子のサイズが35mmフルサイズと大きいので、フィルターホイール自体も大型化され、 50mm径のフィルターを装着できるようになっています。

フィルターホイールが一体になって便利になりましたが、 フィルターの交換はし易いとは言いがたく、取付時は十分注意しましょう。 特に大きなサイズのナローバンドフィルターは非常に高価ですので、 フィルター面を傷つけないようにしましょう。

参考までに、私はAstronomik製の50mm枠無しLRGBフィルターを使っていますが、これはあまりお勧めできません。 といいますのも、Astronomik製のフィルターは、フィルター厚が非常に薄いため、 フィルターホイール内に入れると、フィルター自体が浮いてしまい、工夫しないとしっかりと固定できません。 (私はスペーサーを自作してフィルターを固定しています)

枠無しのフィルターを選ばれるのでしたら、 もう少し厚みのあるAstrodon社や、SBIG社純正フィルターを使われてはいかがでしょうか。 私のおぼろげな記憶では、厚みが3mm〜5mmのフィルターが取り付けしやすかったと思います (STLのフィルターホイール自体が、その厚みのフィルターを前提にして設計されていたと思います)。

CCDのクラスと欠陥ピクセル

CCDの製造メーカーのKodak社は、CCD素子に発生している欠陥ピクセルの数に基づき、 CCDセンサーのクラス(グレードと呼ばれることもある)を決定しています。

欠陥という言葉からは、「欠陥品」のイメージを持ってしまいますが、 現実的には、数百万から数千万の画素のうち、製造過程である程度の欠陥画素が存在してしまうのは、 やむを得ない面もあります。

クラスと欠陥ピクセルの例(KAF-3200センサー)

クラス 欠陥ピクセル クラスター欠陥 カラム欠陥
クラス1 5以下 0 0
クラス2 10以下 4以下 0

欠陥ピクセルの全く発生しない、クラス0センサーも存在していますが、 こうしたセンサーは一部の研究用です。 クラス0センサーは価格が非常に高く、一般的な天体撮影には過剰な性能と思います。

なお、欠陥ピクセルと共に「カラム欠陥」という言葉も耳にすると思いますが、 これは欠陥ピクセルがY軸方向に並び、一本の線(カラム)のようになったものです。 センサーの仕様では発生しないセンサーでも、現実的には発生することが多いようです。

私が使用しているSTL-11000Mには、クラス2のセンサーが用いられています。 製造メーカーによるKAI-11000センサーのクラスと、欠陥ピクセルの定義は以下の通りです。

KAI-11000Mセンサーのクラスと欠陥ピクセル

クラス 欠陥ピクセル クラスター欠陥 カラム欠陥
クラスX 100点以下 0 0
クラス0 100点以下 1点以下 0
クラス1 100点以下 20点以下 0
クラス2 200点以下 20点以下 2点以下
クラス2(カラー) 200点以下 20点以下 10点以下

実際に、STL-11000Mで撮影したダーク画像を下に掲載しましたが、 この画像でも欠陥カラム(白い縦線)が発生しているのがわかります。

白い縦線の数は、明るいもので数本、強調すると8本程度のカラム欠陥が見つかります。 メーカーの成績表では2本以下ですが、KAI-11000Mセンサーを使った他メーカーのユーザーにも伺ったところ、 これぐらいは発生してしまうようです。 なお、ダーク減算すれば、ほとんど綺麗に消えます。

STL11000Mの欠陥カラム

STL11000カメラのダークノイズと転送速度

KAI-11000Mセンサーの特徴でもありますが、他のセンサーが用いられたカメラと比べると、 STL-11000Mはダークノイズが多い印象を受けます。

ST-2000XMと比較しても、ノイズが多く感じられますが、 冷却機構が強化されているので、更に約5度の温度を下げられるので、 その点では有利です(外気温からマイナス40度前後冷却できます)。

SBIG社のSTやSTLシリーズの冷却CCDカメラは、データー転送がUSB1.0仕様のため、 パソコンへのデーター送信速度が遅いです。

200万画素のST2000XMでは、それでもあまり気になりませんでしたが、 1100万画素のSTL11000Mカメラでは、ビニング無しの1枚画像を転送しようと思うと、 30秒ほどのダウンロード時間がかかります。

ただ、USB2に対応した他社製冷却CCDカメラでも、高画質モードでダウンロードすると、 同じくらいの転送時間がかかることが多く、 STLシリーズが特に遅いわけではありません。 実際、FLI社のカメラも使用していますが、ダウンロードに30秒弱かかります。

STL11000の消費電流

フルサイズの撮像素子用に冷却機能が強化されたためだと思いますが、 小さなチップを使っている冷却カメラST2000XMと比べると、電力の消費が大きくなっているようです。

メーカーのカタログには最大消費電流が載っていませんでしたので、 自分で電流計を使って調べてみました。結果としては下の表の通りです。 私のカメラの場合、最大で3A強と言うところでしょうか(電源:バッテリーDC12V)。

カメラを起動した直後 約1.01A STL11000Mの消費電流
冷却を開始した直後 約3.18A STL11000Mの消費電流
冷却能力67%で待機中 約1.92A STL11000Mの消費電流
冷却能力67%で撮影中 約2.25A STL11000Mの消費電流

冷却CCDカメラの電源とノイズ

DC12V用シガライター電源ケーブル SBIG製STL11000冷却CCDカメラには、標準でAC電源アダプター(AC100V〜240V対応)が付属しています。 AC100Vが使用できる環境では、この電源アダプターが便利ですが、 遠征地での撮影では、DC12Vのディープサイクルバッテリーも使用します。 そこで、右写真のDC12V用シガライター電源ケーブルを購入しました。

STL11000Mカメラの内部には、カメラの電源供給をより安定化させるために、 電圧レギュレーターが内蔵されています。 この電源レギュレーターの働きで、DC10V〜18Vの間で電圧が変動しても、カメラを安定して使用できるとメーカーはアナウンスしています。

しかし、実際にこのDC12V用シガライター電源ケーブルを用いて、ディープサイクルバッテリーから電源を供給したところ、 バッテリー電圧の変動と共に、ノイズの発生量が異なってしまいました。 これでは、撮影に支障を来してしまいます。 そこで、バッテリーを使う際でも、DC/AC正弦波インバーターを介して、AC100V用の電源アダプターを使用するようになりました。
※上の消費電流テストはシガライター電源ケーブルで行っています。

なお、AC電源アダプター付属のケーブルは、固くて短いため、延長電源ケーブルを別途購入して使用しています。 延長ケーブルは冷たくなっても柔らかく快適です。 星空撮影は寒い場所で実施することが多いので、こうしたケーブルは、冷たくなっても固くならない素材で作って欲しいものです。

STL11000カメラの私感

STL-11000Mカメラ 転送速度が遅い、ノイズが多いと評されることもあるSBIGのSTL-11000Mですが、 使いやすさと画質のバランスが評価され、世界的に愛用者が多い冷却CCDカメラです。

内部回路に目を向けると、小型モーターやコンデンサには日本製が使用されいて、 中国製を多用しているカメラに比べ、真面目に作られている印象を受けます。

使用感の面では、他社製の冷却CCDカメラと比べると、このSBIG製STLシリーズの美点は、 セルフガイド機能が搭載されていることと、フランジバックが短いことだと思います。

オフアキシス装置を用いた撮影システムを除けば、 ガイド鏡やオートガイダーを別途載せることなく撮影できるカメラは、SBIG製のカメラしか現在の存在しません。 オフアキシスガイドは、オートガイドの失敗を減らす上でとても有効な撮影方法です。

また、セルフガイドシステムは、撮影システム全体がシンプルになるので、遠征撮影派にとってはとてもありがたいことです。 特に少しでも重量を減らしたい海外遠征では、メリットが感じられるでしょう。

フランジバックが短いため、キヤノンEFレンズやオフアキシスガイダーとの親和性も良く、 コンバーションレンズの使用も制限がほとんどありません。 撮影デバイスの選択にはいろいろな考え方がありますが、 システム全体の使いやすさと撮影効率の良さというのも大きな選択ポイントだと考えています。

このSTL11000Mカメラと望遠鏡を使って撮影した、 アンドロメダ銀河オリオン大星雲の写真を是非ご覧ください。 また、明るいキヤノンの中望遠レンズ「EF200mm F2L IS USM」にカメラを接続して撮影した撮影したいて座のスタークラウド付近も併せてご覧いただければ幸いです。

SBIG社 STL-11000M 冷却CCDカメラのスペック

SBIG社STL-11000M冷却CCDカメラの仕様を以下に示します。

本体重さ 約2.2kg(フィルター含んだ実測値)
画素数 4008x2672(36x24.7mm)
ピクセルサイズ 9μx9μ
画像転送 USB1.1、転送時間約26秒
フィルターホイール 内蔵式、5ポジション
冷却能力 外気温から約マイナス40度
その他 ABG機能、ペリカンケース付属
価格 7,295 USドル(2006年購入時)

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