天体写真の世界 > 天体望遠鏡の選び方 > 赤道儀の種類と構造

赤道儀の種類と構造

赤道儀は、天体望遠鏡を使って長時間観測したり、星を点像に写すために必要な架台です。 ポータブル式の赤道儀も数多く登場し、デジタル一眼レフカメラと共に星野写真によく使われるようになりました。 このページでは、赤道儀の基本的な構造や種類などを説明しています。

赤道儀とは

望遠鏡を載せた赤道儀 天体望遠鏡を支える架台には、大きく分けて経緯台と赤道儀の2種類があり、 赤道儀は、日周運動で動く星を正確に追いかけるために開発された電動の架台です。

経緯台がカメラ三脚のように上下左右に動くのに対し、赤道儀は赤経、赤緯という軸を中心に動きます。 どちらも二つの軸を動かして目的の天体を捉えますが、赤道儀の軸は地面に比べて傾いているため、 慣れるまで多少使い辛く感じる場合があります。

赤道儀は、一方の軸(赤経軸)を地球の自転軸(地軸)と平行に備え付けることで、追尾機能を発揮します。 具体的には、赤経軸の先を天の北極(およそ北極星の方向)に合わせることにより、赤経軸が地軸と平行になります。 最近の赤道儀は、赤経軸に極軸望遠鏡が付いているので、これを使って北極星を導入し、天の北極に合わせます。 この作業を「極軸を合わせる」と呼んでいます。

なお、赤道儀にはドイツ式、フォーク式、ホースシュー式など様々な形式がありますが、 日本で一般に販売されている赤道儀のほとんどは、ドイツ式赤道儀です。 そのため、日本で赤道儀といえば、ドイツ式赤道儀を指します。

※日周運動とは:
星は天の北極(北極星)を中心にして、一日で約一回転しています。 これは地球が地軸を中心にして自転しているためにそのように見える現象で、これを星の日周運動と呼んでいます。

赤道儀の外観

赤道儀の動き ここでは一般的な赤道儀の外観について確認してみましょう。 右の写真のように、赤道儀には二つの回転軸があります(赤緯軸と赤経軸)。 これらの二つの軸を回転させることによって、天体望遠鏡を目的の天体の方向に向けます。

赤経軸は、星の日周運動を追いかけるための軸で、モーター内蔵の赤道儀の電源を入れると、 この軸が少しずつ回り始めます。 赤経軸が日周運動と同じ速度で回ることにより、いつでも天体望遠鏡の視野に星が保たれるというわけです。

一方、赤緯軸はこの赤経と直角の方向に回転します。 普段は止まっていて、望遠鏡の向きを変えて天体を導入するときにコントローラーを使って回転させます。 写真ではカメラに近い方の回転軸です。

それぞれの軸には、クランプという締め付ける器具が付いています。 クランプを緩めると、どちらの軸も手で簡単に回すことができます。 モーターを使って追尾する際には、クランプを締めておきます。

その他にも、一般的な赤道儀には、赤道儀全体の方位と角度を変えるための、 方位調整ツマミと高度調整ツマミがついています。 これらは、極軸を合わせるために使う微動装置で、極軸を合わせた後は使うことはありません。 最初に赤道儀を正確に設置するための装置といえるでしょう。

赤道儀の内部構造

ウォームホイルとウォーム 赤道儀の赤経軸、赤緯軸には、それぞれ複数の歯車(ギア)が取り付けられています。 これらのギアがかみ合って動くことにより、赤道儀は星を追いかけます。

まず、それぞれの軸を包むようにウォームホイルという大きなギア(右上の写真に写っている金色の大きな歯車)が、取り付けられています。 このウォームホイルは、それぞれの軸と一体となっており、ウォームホイルが回るとそれぞれの軸も回転する仕組みになっています。

次に、このウォームホイルとモーターの間には、力を伝達するためのギアが幾つか付いています。 その中でも最も重要なギアが、ウォームと呼ばれる細いネジのようなギアです。 このウォームギアが回転すると、ウォームホイルのギアが一段ずつ先に送られ、赤道儀は動き始めます。 このウォームの精度は非常に重要で、この工作精度が赤道儀の追尾精度を左右すると言われています。

一部の赤道儀では、ウォームに直接モーターが取り付けられていますが、 ほとんどの赤道儀は減速用の歯車を介して、モーターの力をウォームに伝達しています。 最近の赤道儀は、自動導入のために高速回転するものが多いので、 この減速歯車のかみ合わせ量も、微妙な調整が必要な部分といえるでしょう。

赤道儀に使われる駆動用モーターには、ステッピングモーターとDCモーターがよく使われます。DCモーターはラジコンなどにも使われる普通の モーターで、高速駆動に向いています。他方、ステッピングモーターは、時計の針のようにカクカクと動くモーターで、低速回転時のレスポンスに 優れています。どちらにも長所短所がありますが、最近の日本製の赤道儀では、ステッピングモーター搭載の製品の方が人気があります。

ピリオディックモーションとは

NJPのPモーション 赤道儀の精度を表すのに、ピリオディックモーション(PE)と呼ばれる値が使われることがあります。 例えば、ビクセンのAXD赤道儀は、ピリオディックモーションが±4秒以内とメーカーが公表しています。 この値はいったい何を表しているのでしょうか。

赤道儀には上記のようにギアが使われているため、このギアの加工精度によって、その回転にどうしてもムラが生じてしまいます。

例えば、ウォーム軸に偏心がある場合、ギアの当たりの強さがギア位置によって異なるため、それがムラとなって現れます。 この回転のムラの範囲を角度の秒で表したものが、ピリオディックモーションです。

ピリオディックモーションは、ギアを組み合わせる赤道儀では避けられない問題で、ピリオディックモーションがゼロという機種はまずありません。 赤道儀の中には、ピリオディックモーション補正システム(PEC補正)と呼ばれる機能を搭載し、これを電子的に補正する機種も存在します。

ピリオディックモーションは小さいほど天体写真撮影に有利なのは間違いありませんが、 オートガイド撮影が主流になっているので、ある程度の値を満足していれば問題ないと思います。 中型赤道儀のピリオディックモーションは、±10〜15秒前後のことが多いです。 小型赤道儀はこれより多くなり、大型になるほど一般的に小さくなります。

ちなみに、最新の赤道儀よりも1980年代前後に製造された赤道儀の方が、ピリオディックモーションが少ないことが多くなっています。 これは、当時はモーターの高速回転が必要なかったのと、オートガイダーが普及する前で、 各社が追尾精度の向上にしのぎを削っていたためだと思われます。

赤道儀の種類

赤道儀には天文台に備え付けられている大きなものから、簡単に持ち運びできるポータブル式まで様々な種類があります。 ここではそれぞれの特徴と、期待できる精度などを私の経験からまとめてみました。 あくまで個人の意見ですので、その点はご了承ください。

ポータブル赤道儀

ビクセン星空雲台ポラリエ ポータブル赤道儀は、赤道儀の赤緯軸を廃して構造を簡素化し、持ち運びしやすくしたコンパクトな架台です。 ポータブル赤道儀は、略して「ポタ赤」と呼ばれることもあります。

代表的な製品としては、ケンコーのスカイメモS、タカハシのスカイポート、 ビクセンのポラリエ、赤いボディーのTOAST、天文ショップアイベルのオリジナルCD-1、サイトロンジャパンのナノトラッカー、 ユニテックのSWAT-200、スリックのECH-630などがあります。

昔は、ケンコーのスカイメモや、五藤光学のスカイグラフぐらいしかありませんでしたが、 デジタル一眼レフカメラの性能向上と共に、様々な大きさのポータブル赤道儀が発売されています。

このタイプの赤道儀の長所は、小さく軽いため、持ち運び易いという点に尽きるでしょう。 また、カメラ三脚に載せて使うことを前提にしているので、固定撮影の延長として購入して使うことができます。 山岳星景写真を撮られる方や、海外まで遠征される方にも人気がある機種です。

一昔前のポータブル赤道儀は、小型赤道儀の赤緯体を取り外し、大きさだけ小さくしたモデルが多かったのですが、 最近のポタ赤は、気軽に持ち運べるようにいろいろと工夫されています。 デザインの凝ったものも多く、一見しただけでは赤道儀とわからない洒落た製品もあります。 このような製品を利用して、気軽に星空撮影を楽しむのもいいですね。

小型赤道儀

タカハシP2-Z赤道儀 どの大きさまでが小型赤道儀という明確な定義はありませんが、 大抵、最大積載重量が5キロから10キロ程度までの赤道儀が小型赤道儀と考えられています。

代表的な機種としては、ビクセンGP2赤道儀、AP赤道儀、SX赤道儀、タカハシP-2Z赤道儀、PM-1赤道儀、EM11赤道儀、 Sky-Watcher EQ3、古いところでは、五藤光学のマークX赤道儀、タカハシのスペースボーイ赤道儀などです。

天体観測に慣れてきて、初めて赤道儀を購入する場合に候補に挙がるのがこのクラスの赤道儀でしょう。 このクラスの赤道儀は、コストパフォーマンスが高く、機能が上級機種並みに充実している機種も用意されているのが特徴です。 口径8〜10センチ程度までの天体望遠鏡を搭載することができますから、惑星や月の観望から天体写真の撮影までこなすことが できます。赤道儀を初めて使ってみたいという人にお勧めできるクラスだと思います。

小型赤道儀はカメラレンズを使った星野写真撮影でも、ポータブル赤道儀の代わりになってくれますし、使い勝手のよいサイズの赤道儀です。 できれば、信頼性のあるメーカーからよい機種を買っておかれると、長い期間に渡って使うことができると思います。

中型赤道儀

タカハシEM200赤道儀 タカハシのベストセラー赤道儀、EM200赤道儀がこのクラスの代表格と言えます。 その他にもビクセンSXP赤道儀、SXD2赤道儀、ペンタックスのMS-4赤道儀などがあります。 搭載重量が10キロ〜20キロ弱ぐらいの範囲がこのクラスに入ります。

中型クラスの赤道儀は、本格的な天体写真撮影をするユーザーに大変人気があります。 まず、小型赤道儀で天体写真を始めた後、もう少し精度が欲しくなったときに購入を検討されるクラスの赤道儀です。 小型赤道儀よりも重量があるので、動作も安定しており、より大きな天体望遠鏡を使うことができます。 小型赤道儀に比べると価格が随分高くなりますが、やはり撮影の成功率などの点で、安心・安定感がある赤道儀のクラスです。

大型赤道儀に比べると遠征撮影にも持って行きやすいので、車で機材を運んで郊外で天体写真撮影を行うファンに高い人気があります。 これ以上のクラスになると、本体重量だけで30キロ近くとなり、赤道儀本体を持ち運ぶだけも大変になります。

大型赤道儀

スカイウォッチャーEQ-8赤道儀 一般に搭載重量が20キロ以上の赤道儀を大型赤道儀と呼んでいます。

代表的な赤道儀としては、タカハシのEM400、NJP、 ビクセンAXD、ユーハン工業のU-150、ペンタックスMS-5、宇治天体精機スカイマックス、 昭和機械製作所New20E、Sky Watcher EQ8などがあります。

どれも本体だけで20キロ以上ある機材で、相当大きな望遠鏡まで載せることができます。 このクラスの赤道儀は、移動撮影で持ち運べる限界の大きさの赤道儀と言えます。

このクラスの赤道儀を選ぶ方は、相当大きな天体望遠鏡を所有されている方です。 天体写真を続けているうちに、使う鏡筒が大型化していき、最終的に到達する赤道儀のクラスと考えられ、 最初からこのクラスの赤道儀を購入する方はほとんどいないでしょう。 価格も赤道儀と三脚で100万円前後となり、小型自動車なみ価格帯になります。

このクラスの赤道儀なら、個人天文台にも十分使用することができます。 当初は遠征撮影用として使用し、最終的にドームを建て、 そのドーム内に赤道儀を設置して観望・撮影を楽しむという方もいらっしゃいます。 高い精度と剛健さが魅力のクラスと言えます。

備え付け型赤道儀

公共天文台の赤道儀 備え付け型赤道儀は、その名の通り、天文台のドーム内に設置することを前提に作られた赤道儀です。 赤道儀の移動を考えていないため、赤道儀本体と脚部は一体化されており、総重量も200キロクラスと相当な重さになります。 このような赤道儀のほとんどは注文生産となっており、中央光学やタカハシ、昭和機械製作所などが代表的なメーカーです。

このクラスの赤道儀となると、最近はドイツ式よりもフォーク式赤道儀の方が人気が高くなっているようです。 遠征で持ち出すことを考えると、毎回の極軸合わせが簡単にできるドイツ式が好まれますが、 備え付けなら極軸を合わせ直す必要はめったにありません。 そのため、子午線越えを気にせずに済むフォーク式が人気があります。

公共天文台にも使われるクラスの赤道儀ですから、価格も非常に高くなってしまいます。 赤道儀に載せる天体望遠鏡と合わせると、1000万円を超えるものも珍しくありません。 個人ではおいそれと手が出ない価格帯の赤道儀です。

※子午線越え:
天文学上での子午線とは、天の北極から天頂を通って真南に通る道を指します。つまり天体が南中したとき、その天体は子午線上に 位置していることになります。この子午線を超えることを子午線越えと呼んでいます。
ドイツ型赤道儀は、天体望遠鏡とバランスウェイトが赤道儀を挟んで両側に付いているため、天体が子午線を超えたときに望遠鏡と ウェイトを入れ替えないとなりません。入れ替えると、天体がカメラのファインダーの中で逆になったり、視野から外れたり するため、構図やオートガイダーの設定などをやり直す必要があります。天体写真ファンはこの子午線越え撮影を特に嫌います。

赤道儀を選ぶポイント

赤道儀を選ぶ上では、どのような機材を載せたいかということを最初に考える必要があります。 例えば、6センチの屈折望遠鏡しか載せないということでしたら小型赤道儀で十分ですし、 30センチの反射望遠鏡を載せるなら、大型の赤道儀が必要になります。 自分が搭載しようと考えている最大の機材を考えて、必要な赤道儀を選んでみてはいかがでしょうか。

また、天体写真向き天体望遠鏡のページでも述べていますが、写真撮影をするなら、 搭載重量に若干余裕がある機種をお勧めします。 天体写真撮影を行う場合は、ガイド鏡やデジタルカメラなども搭載する必要があるため、 どうしても全体の重量が増してしまうためです。 こうした点も考慮して選ばれると、最適の赤道儀に出会えると思います。

赤道儀は一種、特殊な機器ですので、初めて購入する場合はどれを選んでよいか迷うことも多いと思います。 できれば天体望遠鏡専門店に一度足を運んで、店員さんにアドバイスをもらうことをお勧めします。 現物を見ながら説明を聞けば、赤道儀の動き方もイメージできますし、使いこなせそうな大きさかどうかもわかると思います。

スカイウォッチャーEQ3赤道儀
Sky-Watcher EQ3 GOTO赤道儀(ステンレス三脚仕様)

スカイウォッチャーEQ3 GOTOは、天体望遠鏡のグローバル企業SkyWatcher社が製造している赤道儀です。 いわゆる中国製の赤道儀ですが、日本製に比べるとギアの精度などに若干バラつきがあるものの、 シビアな天体撮影以外なら十分楽しむことが出来ます。

EQ-3 GOTO赤道儀には、自動導入機能が付属しているので、天体撮影、天体観望が初めての方でも、 容易に目標の天体を導入することができます。 日本製の自動導入赤道儀が20万円以上することを考えると、8万円前後で販売されているEQ-3赤道儀の コストパフォーマンスの高さがよくわかります。

スカイウォッチャーEQ3 GOTOには、5キロ程度の機材を乗せることができ、 初めての赤道儀としてはお勧めだと思います。 赤道儀の取り扱いに慣れて、もっと大きな機材を載せたくなったときに、高価なモデルを候補に入れてみてはいかがでしょう。

Amazon