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メシエ天体の観測入門

天体望遠鏡を購入して天体観測をするようになると、メシエ天体という言葉を耳にされると思います。 メシエ天体とは何なのか、また、メシエ天体を見るためには、どのような天体望遠鏡が適しているのかを、 このページで説明しています。


メシエ天体とは

メシエ天体の一番目かに星雲 メシエ天体とは、メシエ天体という一つの天体があるわけではなく、 フランスの天文学者シャルル・メシエが作成したメシエ天体カタログに掲載されている星雲や星団を指しています。 現在、1番から110番までのメシエ天体が登録されており、それぞれメシエの頭文字を取って、M1、M2と「M」に番号を付けて表記されます。

メシエカタログは、彗星を捜索していたメシエが、彗星と紛らわしい形をした天体をリストにまとめたのが始まりといわれています。 1771年に最初に発表されたメシエ天体カタログ第一巻には、M1〜M45までの天体が掲載され、 その後、1781年に第二巻、1784年に第三巻が発表されました。

なお、メシエカタログには、メシエの助手ピエール・メシャンによって発見された天体や、 後の研究で追加された天体も掲載されています。 メシエカタログに登録された天体の中には、位置のはっきりしていない天体も含まれており、 メシエ天体の総数は、研究者によって議論が分かれるところとなっています。

ところで、メシエカタログ以外にも天体カタログは多数存在しています。 その中で、メシエカタログが天文ファンの間ではダントツの知名度を誇っているのは、 掲載されている天体が比較的明るいので、アマチュア向けの天体望遠鏡でも観測しやすいためでしょう。


彗星の狩人と呼ばれたシャルル・メシエ

天文台の写真 メシエカタログを作成したシャルル・メシエ(Charles Messier)は、 1730年、フランスのロレーヌ地方の裕福な家に、12人兄弟の10番目の子供として生まれました。 早くに両親を亡くしたメシエは、1751年、21歳のときに町を出てパリに向かいます。 そしてフランス海軍天文台で働いていたニコラ・ドリールの助手として働くようになりました。

ドリールの助手として働く中で、メシエは彗星捜索への興味を深めていきます。 そして、1759年3月に地球に回帰したハレー彗星を観測したのがきっかけとなり、 メシエは新彗星発見に情熱を燃やすようになります。

ドリールが1760年に天文台を退官した後、メシエは天文台の設備を任されるようになり、 以前にも増して彗星発見のための観測に打ち込みます。 1804年までにメシエは44個の彗星を観測し、12個の彗星にはメシエの名前が付けられました。 このような功績がたたえられ、フランスのパリ学士会員の資格を与えられています。

彗星発見に没頭したメシエのことを、当時のフランス国王ルイ15世は「彗星の狩人」と呼びました。 また、メシエはナポレオンから1805年に十字勲章も受けています。 新彗星発見への情熱を燃やし続けたメシエは、フランス革命の動乱を経験した後、1817年に他界しています。


メシエ天体の観測に向いた望遠鏡

シュミットカセグレン望遠鏡 メシエ天体は明るいものが多いので、口径8〜10センチ程度の天体望遠鏡があれば、 ほとんど全てのメシエ天体の存在を確認することができます。 しかし、メシエ天体をより詳しく観察したいなら、 集光力に余裕のある天体望遠鏡を用意したいところです。

具体的には、口径20センチ程度の天体望遠鏡がメシエ天体観望に向いています。 この程度の口径があれば、10等級の銀河も観察することができます。 口径20センチとなるとかなり大型の機材になりますが、 シュミットカセグレン式の望遠鏡なら比較的コンパクトです。 自動導入が付いた架台を選べば、手軽にメシエ天体の観望を楽しむことができるでしょう。

ニュートン式望遠鏡も中心像がシャープで魅力的ですが、 シュミットカセグレン式と比べて全体的に大きくなり、 載せる架台もより大型のものが必要になります。

屈折式では、口径20センチクラスのものはありませんので、 13センチ程度の口径の天体望遠鏡を選ぶことになりますが、 このクラスでEDレンズを使った屈折式望遠鏡は非常に高価になってしまいます。

なお、M45を始めとした散開星団は、星々がまばらに大きく広がっていることが多いので、 天体望遠鏡よりも双眼鏡の方が観察するのに適しています。 双眼鏡も用意しておくと、望遠鏡との比較もできるのでより深く楽しむことができるでしょう。

※天体望遠鏡の基本性能は、口径(対物レンズや主鏡の直径)によって決まります。 倍率は接眼レンズを替えることで自由に変換することが出来ます。


ドブソニアンは上級者向き

ドブソニアン ドブソニアンとは、口径の大きな望遠鏡を簡易な架台に載せたタイプの望遠鏡のことで、 ジョン・ドブソン氏が考案した望遠鏡です。 天体観望を楽しむ方に大変人気のある天体望遠鏡で、天体観望会にもよく登場するタイプです。

このドブソニアンタイプの魅力といえば、大口径を比較的安価に手に入れられることと、 組み立て式になっているため移動させやすいことです。 しかし、天体を導入するには慣れが必要で、天体望遠鏡の扱いに慣れた人向きの機材です。 初めて購入する天体望遠鏡にドブソニアン式は避けた方がよいと思います。

最近は、ドブソニアン式でも架台にモーターが内蔵されていて、 自動導入が出来るタイプの製品も登場してきました(右上画像)。 このような機材なら初心者の方でも比較的簡単に天体を導入できると思います。 ただドブソニアン式には小さなものは少なく、口径25センチ以上が一般的です。 比較的移動させやすいといっても、かなり大掛かりな機材になりますので、 大きさをよく確かめてから、購入された方が良いと思います。


メシエ天体が見える時期

メシエ天体は100個以上もあるので、一晩で全ての天体を見ることはほぼ不可能です。 それに天体によって見える季節が異なっているので、 事前に見たい天体の見える時期を調べておく必要があります。 例えば「M31」は、アンドロメダ座で輝く銀河で、秋に見頃を迎えます。

また、メシエ天体カタログは1番から順に番号が振られていますが、 隣り合った番号だからといって、見える時期が同じとは限りません。 例えば「M1」は「かに星雲」の呼び名で知られた超新星残骸で、冬に見頃となりますが、 続く「M2」は、みずがめ座の球状星団で秋に見頃となります。

天文関係の書籍や、インターネット上で気になるメシエ天体を見つけたら、 事前に見える場所を調べておきましょう。 最近はスマートフォンのアプリでも、メシエ天体の位置を教えてくれるソフトがありますので、 それらを利用すると便利です。 また、このサイトのギャラリーにも、メシエ天体の写真を載せていますので、 そちらも参考にしていただければ幸いです。


メシエマラソンで全天体制覇

メシエマラソン メシエマラソンは、100個以上あるメシエ天体をたった一晩で観望してしまおう、 という天体観望イベントです。 1970年代にアメリカで紹介されてから、日本でも毎年公共天文台の主催で行われるようになりました。

メシエマラソンが行われる時期は毎年3月下旬〜4月上旬にかけてです。 この頃なら夜の時間がある程度長く、太陽の近くにメシエ天体が位置していないためです。

メシエマラソンが始まると、皆さん一斉に西へと天体望遠鏡を向けて、沈み行く秋の天体を確認していきます。 まず初めに、うお座のM74銀河を確認しようとする方が多いようですが、 これがなかなか淡い天体のため難物です。 時間も限られているため、最初でもたもたしていると後の天体を確認できなくなります。 そのようなスリルもある楽しみが、メシエマラソンにはあります。

なお、メシエマラソンでは、自動導入機能を使うことは一般的には禁止されていますが、 最近ではドーピング部門といって、このような機能を使って競い合う部門もあるようです。 天体観測に慣れてきたら、このようなイベントに参加してみるのも面白いのではないでしょうか。


人気があるメシエ天体

M27 メシエ天体の中でも、人気の高い天体とそうでないものがあります。 天体観望会などに参加して観望者の様子を伺っていると、 天体望遠鏡で覗いて形がわかりやすい天体に人気が集まっているようです。

観望会で安定した人気があるのが、ヘルクレス座のM13を始めとした球状星団です。 天体望遠鏡を使うと、星が集まった様子が初心者でも容易にわかるためでしょう。 特に大型の球状星団が人気があります。

続いて人気があるのは、惑星状星雲です。 特にこぎつね座の亜鈴星雲M27は、惑星状星雲にしては視直径が大きく、形がわかりやすいので人気があります。 こと座のM57も大きさは小さいのですが、リングの形がよくわかり、好印象を持たれる事が多いです。

一方、よく知られたアンドロメダ大銀河M31は、 写真でよく見る渦を巻いたイメージが頭の中にあるためか、そこまで見ることができず、感動は今一つのようです。 それに比べて、子持ち銀河M51は二つの銀河がつながった様子がわかるため、 案外人気があります。 色合いが派手な散光星雲は、天体写真ファンには大変人気がありますが、 眼視では色合いがわからないということもあり、残念ながらそれほどの人気はありません。


写真とは違うメシエ天体

インターネットには、美しい天体の写真があふれています。 ところが、写真のような星雲の姿を天体望遠鏡を使えば見ることができると思って覗くと、 ガッカリしてしまうことになります。

例えば、左下はデジタルカメラで撮影したアンドロメダ銀河(M31)の写真ですが、 天体望遠鏡を肉眼で覗いたイメージは右下のようなものです。 銀河の渦の様子や色合いはわかりませんし、全体に薄雲のようなイメージです。

写真と眼視の比較

天体写真の世界では、何十分も露出することも希ではありません。 露出時間を延ばすことで、淡い星々の光をデジタルカメラの撮像素子に蓄積し、 薄い色合いや構造を画像処理によって強調します。 ところが、肉眼で捉えられるのは、その時々の一瞬の光です。 ですので、一般の風景並みに明るい月や惑星なら、ほぼ写真と同じように見ることができますが、 淡い星雲では難しいということになります。

しかしだからと言って、天体望遠鏡を使って実際に見ることに意味がないとは思いません。 メシエ天体は地球から遥か離れた場所に位置しています。 そこから何百年、何万年と旅してきた光が自分の目に届くのです。 そのようなことに思いをはせて観望すれば、また違った印象を抱くのではないでしょうか。

メシエ天体ビジュアルガイド
メシエ天体ビジュアルガイド: 星雲・星団110個すべてを写真と星図で見せる

110個あるメシエ天体の全てを、写真で紹介しているビジュアルガイドブックです。 見開きの右側1ページを使ってメシエ天体の写真を載せ、その左側ページで被写体について解説しているので、 とても見やすい構成になっています。

メシエ天体を観測しようと思っている初心者の方だけでなく、ベテランの方にも重宝する本だと思います。 また載せられている写真は大きく綺麗ですので、天体撮影時の参考にもなりそうです。 こうした写真が豊富に掲載されたガイドブックがあると、 天体観測がより楽しくなると思います。

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