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ポータブル赤道儀の比較と選び方

ポータブル赤道儀は、赤道儀の赤緯軸を廃して構造を簡素化・軽量化し、持ち運びしやすくしたコンパクトな架台です。 デジタル一眼レフカメラやミラーレス一眼を使った星空撮影が身近になるにつれ、このようなポータブル赤道儀が注目されるようになりました。

現在は、望遠鏡メーカーに留まらず、様々なメーカーがポータブル赤道儀するようになりました。 このページでは市販されているポータブル赤道儀の性能を一覧にまとめ、おすすめポイントも記載しています。

ご自分に合った一台を選択する際の参考になれば幸いです。 なお、ポータブル赤道儀は略して「ポタ赤」、もしくは「コンパクト赤道儀」と呼ばれることもあります。

主なポータブル赤道儀の一覧

市販されているポータブル赤道儀について、気になる性能や価格と共に下の表にまとめました。

名称メーカー搭載重量ウォームホイル極軸径極望 電源重さ0.5倍速AG端子実勢価格
ECH-630スリック約5kg歯数10017mm設定無 単3電池4本630g×¥43,000
ポラリエビクセン約2kg歯数1449mm別売 単3電池2本740g×¥39,800
ポラリエUビクセン約2.5kg歯数14440mm別売 単3電池4本,USB575g¥62,000
CD-1アイベル約5kg歯数150-別売 単3電池6本1.2kg××¥34,800
CD-1+アイベル約5kg歯数150-別売 単3電池6本1.2kg×¥37,800
スカイメモ Tケンコー約3kg歯数72-内蔵 単3電池2本650g×¥35,000
スカイメモ Sケンコー約5kg歯数144-内蔵 単3電池4本1kg¥35,000
スカイメモ RSケンコー約5kg歯数144-内蔵 単2電池4本3kg¥68,000
スカイポートタカハシ-歯数82-別売 単3電池4本1.2kg××¥56,000
PM-SPタカハシ約4kg歯数112-内蔵 単3電池4本1.8kg×¥118,000
TOAST-ProTOAST TEC-歯数150-別売 単3電池4本1.5kg×¥89,000
TP-2TOAST TEC-歯数150-別売 DC5V-12V1.3kg×¥89,250
SWAT-miniUNITEC約2kg--設定無 ゼンマイ720g××¥27,300
SWAT-200UNITEC約5kg歯数16840mm別売 単3電池6本1.4kgOP¥85,000
SWAT-300UNITEC約8kg歯数21040mm別売 単3電池6本2.1kgOP¥123,900
SWAT-310UNITEC約10kg歯数21040mm別売 単3電池6本2.4kgOP¥124,200
SWAT-350UNITEC約15kg歯数21040mm別売 単3電池6本2.4kgOP¥144,900
JILVA-170SB工房約10kg歯数28840mm別売 DC4〜DC12V3.9kgOP¥98,000
ナノトラッカーサイトロン
ジャパン
約2kg歯数508mm設定無 単3電池3本400g×¥19,800
New
ナノトラッカー
サイトロン
ジャパン
約2kg歯数508mm設定無 USB/単3400g×¥24,800
ナノトラッカー
AG
サイトロン
ジャパン
約2kg歯数508mm設定無 USB/単3400g¥30,000
TT320X-AGAstroTrac約15kg別方式-別売 単3電池8本1kg¥76,800
GF50K-ASTEC約3kg歯数8210mm内蔵 単3電池4本1.8kg¥96,000
スカイトラッカーiOptron約3kg歯数15611mm内蔵 単3電池6本1.1kg×¥60,000
MusicBox
EQU
Leo
Optronics
約2kg--設定無 ゼンマイ600g××¥19,800
PanHeadEQスカイバード約3kg歯数11025mm別売 単3電池6本920gOP¥43,800
Higlasi
-2.1A
如意設計
工房
約5kg歯数6010mm別売 USB電源1.2kg¥45,000

※メーカーが該当する部分の諸元性能を表示していない場合は、その部分に「−」マークを入れました。
※AG端子はオートガイド端子の略です(OPの機器は、コントローラー等が別途必要)。
※掲載している価格は変動している可能性があります。
※一覧には、生産が終了したモデル(GF50、TOAST-Pro等)も含まれています。

ポータブル赤道儀の選び方

ポータブル赤道儀の選び方は人それぞれだと思います。 なるべくコンパクトなポータブル赤道儀を探す方がいる一方、 ポータブル赤道儀でも望遠レンズで撮影できるだけの追尾精度を求める人もいるでしょう。 そこで、いくつかの場合を想定して、それぞれのケースにおすすめできるポータブル赤道儀を考えてみました。

コンパクトさ重視

サイトロンジャパンのナノトラッカー 元々、ポータブル赤道儀は、旅行時に気軽に持って行くために作られた天文機材ですから、 コンパクトさを重視して選ぶのは最も自然な選び方かもしれません。

何と言ってもカメラバックや旅行鞄にすっぽりと入るのが、ポータブル赤道儀の大きな魅力ではないでしょうか。

コンパクトさや軽さという点から最適の一台を選ぶと、 サイトロンジャパンのナノトラッカーとMusicBoxEQU、それにユニテック社のSWAT-miniが第一候補になるでしょう。 どちらも500g前後の重さで、手のひらに載るほどの大きさです。 これならどこでも気軽に持ち運べますね。

特にMusciBOXEXIIとSWAT-miniは、ゼンマイ(オルゴール)が動力の源となっていますので、電源すら必要ありません。 軽量なミラーレス一眼レフカメラと広角レンズで撮影する場合など、追尾精度にそれほどこだわらない用途なら、 このような超小型赤道儀がおすすめです。

ビクセンのポラリエもデジタル一眼レフカメラのボディほどの大きさですから、カメラバックに十分入る大きさです。 ケンコーのスカイメモRSやSWAT-300、SWAT-350等を除くと、その他の機種でも1キロ前後ですから、 デザインの好みで製品を選んでもよいかもしれません。 なお、AstroTrac社のTT320Xは、たたむと長い板のような形状になります。 軽くて持ちやすいのですが、カメラバックには入れにくいかもしれません。

追尾精度を重視

ユニテック社のSWAT-200とSWAT-350 赤道儀の精度が不十分だと星が流れて写ってしまいますので、ポータブル赤道儀と言えども、 ある一定の追尾精度は満足して欲しいものです。

追尾精度を考える際には、赤道儀に使われているウォームホイルの大きさが参考になります。 加工精度もあるので一概には言えませんが、この大きさと歯数が多いほど滑らかな回転が期待できます。 また、最大搭載重量が大きいほど赤道儀は丈夫に作られていると考えられますので、 これも追尾精度の向上につながります。

上表の中で、ウォームホイルの歯数が最も多いのは、SB工房が製造販売しているJILVA-170です。 ホイールの直径も直径162ミリという中型赤道儀並みの大きなもので、 全品検査を実施して、追尾精度±4〜5″以内に保たれていることをチェックしているということです。

ユニテック社のSWATシリーズも、高精度のポータブル赤道儀として知られています。 SWATシリーズで最初に発売開始されたSWAT-200は、メーカーがピリオディックモーション±10″前後をうたっています。 2013年冬には、上位機種となるSWAT-300とSWAT-350が発売されました。 SWAT-350は最大搭載重量が約15キロと、中型赤道儀並みの強度を売りにしています。

TOAST-Proは、前機種のTOASTの頃から追尾精度を売りにしていたモデルで、 メーカーの発表によれば、このTOAST-Proでも±7秒のピリオディックモーションとのことです。 2013年冬、TOAST-Proの後継機となるTP-2が発売されました。 タイムラプスモードなど、新機能を追加して、より使い易くなっているようです。

AstroTrac社のTT320X-AGはウォームホイルを使わず、ネジをゆっくりと回転させることで追尾する方式です。 そのため、最大で2時間前後しか連続して追尾することができませんが、 ピリオディックモーションは±5秒以下と素晴らしい精度です。

ケンコーのスカイメモRSは、このリストの中で一番古くから販売されている機種です。 他の機種に比べて重量は重いですが、ボディがしっかりしているので安定感があり、追尾精度も良好です。 なお、2015年にスカイメモRSの後継機となる、小型のスカイメモSが発売開始されました。

※ウォームホイルの歯数が多いほど、ピリオディックモーションの発生周期が短くなります。 そこで逆に歯数を少なくして、この影響を受けづらくした方がポータブル赤道儀に向いているという意見もあります。

※正確に追尾させる上では、赤道儀の精度だけでなく、赤道儀を固定する三脚や台座の強度も重要になってきます。

極軸望遠鏡の有無

SWAT-200の極軸望遠鏡 赤道儀の追尾精度がどれほど優れていても、極軸がずれていては元も子もありません。 広角レンズでの撮影なら素通しの穴でも問題ありませんが、望遠レンズでじっくりと星空を撮影するとなると、 ポータブル赤道儀の回転軸を、天の北極に正確に合わせるツール(極軸望遠鏡など)が欲しいところです。

ケンコーのスカイメモRS、スカイメモSには、極軸望遠鏡が内蔵されています。 スカイメモシリーズに使われている極軸望遠鏡のスケールは、昔からポータブル赤道儀の定番です。 同じようなスケールが使用されている極軸望遠鏡のことを、スカイメモタイプと呼ぶほどです。

K-ASTECのGF50は、ボディに極軸望遠鏡を固定したタイプです。 メーカーで極軸望遠鏡の軸を調整し、鏡筒バンドで支持しているので、 内蔵式と同程度の精度が出ていると思われます。

タカハシPM-SPは、2014年9月に発売開始されたポータブル赤道儀です。 タカハシらしいアルミ鋳造のボディの中に、南半球対応の極軸望遠鏡が内蔵されています。 メーカー担当者によれば、極軸望遠鏡は調整後に出荷しているということでしたので、 外付け方式の極軸望遠鏡に比べて精度良く極軸合わせができそうです。

ユニテックのSWATシリーズ(SWAT-miniを除く)、SB工房のJILVA-170、TOASTのTP-2、ビクセンのポラリエ、スカイバードのPanHeadEQには、 外付けの極軸望遠鏡がオプションで用意されています。 内蔵式に比べると、外付けの場合は、赤道儀の回転部分と極軸望遠鏡の軸が合っているかが気になるところですが、 その点は考えられて製作されているようです。

Higlasi-2.1の液晶モニター iOptronから発売されているスカイトラッカーには、極軸望遠鏡だけでなく、本体に微動台座が備え付けられています。 極軸合わせを行うときは、赤道儀本体の向きや高度を微調整する必要がありますので、微動台座があると便利でしょう。 なお、他社は、オプション設定で微動雲台を用意しています。

Higlasi-2.1は、高度なモータードライブ装置が内蔵されているのが特徴のポータブル赤道儀で、恒星時800倍速で駆動が可能です。 極軸の設定は、その高速回転を利用したカーチス法で合わせる方式を採用しています。 また、Higlasi-2.1には、デジカメのシャッターコントロール機能も装備されており、 液晶画面で露光時間と撮影枚数を設定することが可能です。

ところで、2015年、QHY CCD社から極軸合わせ用のCCDカメラ「Pole Master」が発売されました。 発売以来、高い注目を集めており、従来の極軸望遠鏡に取って代わる勢いです。 小型なので、ポータブル赤道儀にも取り付けやすく、これを使えば、より高い精度で極軸合わせができそうです。 ただ、パソコンが必要なのは残念です。 ポータブル赤道儀の用途を考えると、タブレットやスマホで動くようになって欲しいところです。

デザインを重視

ビクセン星空雲台ポラリエとミラーレス一眼 星空写真や星景写真の撮影が一般的になるにつれて、もっと楽しく星空を撮ろうという気運が高まってきました。

撮影場所で楽しい気持ちにさせてくれるのは、デザイン性に優れたおしゃれなポータブル赤道儀かもしれません。 デザインの観点から何機種か見ていきましょう。

TOASTシリーズは、それまで無骨だったポータブル赤道儀のイメージを一新させた機種です。 赤くスタイリッシュなボディは高級感があり、持つ喜びも感じさせてくれます。 シックで格好良いポタ赤を探している方にはピッタリではないでしょうか。

ビクセンのポラリエは、白を基調にした色合いに角がとれた優しいデザインで、女性にも支持されそうです。 外観もカメラボディのようで、カメラバックに入れていても違和感がありません。

ユニテック社のSWAT-200は、青・黒・赤・白の4色に加えてメタリックカラーも追加され、カラーリングが楽しめます。 天文仲間何人かで違う色を購入して、一緒に星空撮影に出かけけるのも楽しいかもしれません。
※メタリックカラーの生産は終了しました。

構図の自由度を重視

スカイメモRSとデジタル一眼レフカメラ ポータブル赤道儀には赤緯軸がないため、赤経軸に自由雲台を直接取り付け、その雲台の首の部分を曲げることで構図を合わせます。

この方法は、一見、デジカメを自由に動かせて良さそうですが、実際に使用してみると、 撮影する方向によってはカメラと雲台やポータブル赤道儀が干渉して、もどかしいことがあります。

この問題を解消したのが、K-ASTECのGF50です。 このポタ赤はジンバルフォーク赤道儀と呼ばれていますが、長く伸びたアームの部分にカメラを取り付けるので、 どのような構図で撮影してもカメラが干渉しにくくなっています。

ケンコーのスカイメモRSには、簡易的な赤緯軸が付属しています。 このアームを用いれば、一般的な赤道儀と同じように二軸を動かして構図を決めることができます。 アームの両側にそれぞれデジカメを取り付けて、軸回りのバランスを取ることもできます。

ビクセンのポラリエ用として、天文ショップから様々なオリジナルのアイテムが販売されており、 この中には赤緯軸として使える製品もあります。 このようなオリジナルアイテムが揃っているのもポラリエの人気の高さ故でしょう。

ユニテック社のSWAT-200用には、ドイツ式ユニットなど、メーカーからいろいろな追加装備が用意されています。 レベルの高い星野写真を撮影するために作られた後発機種だけあって、メーカー純正のアイテムが充実しています。

タカハシのスカイポートにも赤緯軸が用意されています。 AstroTrac社のTT320X-AGにも、TH3010という専用の赤緯軸が販売されています。

オートガイドの対応

SWAT-200のオートガイド対応コントローラー 標準レンズ以下なら問題ありませんが、焦点距離300ミリ前後の望遠レンズを使って、 星雲や星団を長時間露光で撮影すると、ポータブル赤道儀を使用しても、星が僅かに流れて写ってしまいます。 赤道儀は複数のギアで構成されているため、どうしても地球の自転からずれてきてしまうためです。

こうしたズレを防ぐのが、オートガイダーと呼ばれる追尾状況を監視する小型のカメラです。 オートガイダーを使うためには、ポータブル赤道儀にオートガイド端子が装備されていなければなりません。

オートガイダーに対応しているのは、K-AstecのGF50、ユニテックのSWATシリーズ(SWAT-miniを除く)、SB工房のJILVA-170、 如意工房のHiglasiなどです。 GF50とHiglasiは、本体にオートガイド端子が設けられています。 SWATシリーズと、JILVA-170は、オプションのコントローラーが用意され、コントローラーにオートガイド端子が装備されています。

なお、通常の赤道儀の場合は、赤経と赤緯軸が装備されているので、オートガイド撮影すると両軸で修正動作を行いますが、 ポータブル赤道儀の回転軸は赤経軸だけです。 そのため、オートガイドは一軸ガイドとなり、赤緯方向のズレは修正することができません。 焦点距離の長い鏡筒を使ってのオートガイド撮影を考えているなら、両軸ガイドができる小型赤道儀の方が使いやすいと思います。

まとめ

銀塩フィルムが天体写真の主を締めていた頃は、30分〜1時間以上露出することが多かったため、 広角レンズと言えども、しっかりとしたポータブル赤道儀が必要でした。

ところが、デジタルカメラの高感度性能の性能向上と共に露出時間は一気に短くなり、 ポータブル赤道儀の設計の自由度が高まりました。 そのような過程を経て、銀塩フィルム時代には見られなかった、より小型のポータブル赤道儀が登場してきました。

大変コンパクトになったポータブル赤道儀ですが、撮影の基本は変わらず、 しっかりした三脚に載せて撮影することが失敗を減らすポイントです。 中望遠レンズで撮影する際には、赤道儀の極軸も、できるだけ正確に合わせて撮影したいところです。

小さなポータブル赤道儀ほど、上手に撮影するには経験が必要です。 これからポータブル赤道儀を使って、初めて星空を撮影しようと思っていらっしゃるなら、 大きめでしっかりしたポータブル赤道儀の方が、失敗が少ないでしょう。 初めてだからこそ、機材に助けられる部分が大きいからです。 そのような点も考慮して、最適な一台を選んでみてはいかがでしょうか。

ビクセン星空雲台ポラリエ
ビクセンポラリエ

株式会社ビクセンが2011年に発売開始したポータブル赤道儀が「ポラリエ」です。 発売開始と共にヒット商品となり、一時は望遠鏡販売店の在庫が払拭したほどです。

ポラリエには、専用三脚も用意されています。 専用三脚は極軸合わせがし易いのが利点ですが、一緒に付いてくる自由雲台の強度が低いのが残念です。 より強度を求めるなら、この自由雲台を強度の高いものに交換した方がよいでしょう。

ポラリエはユーザーが多いので、望遠鏡販売店でオリジナルのオプションパーツが販売されています。 こうしたパーツを利用して、自分だけのポラリエを作ってみるのも面白いのではないでしょうか。

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ケンコースカイメモS
Kenko スカイメモS

スカイメモSは、ケンコーが2015年に発売開始したポータブル赤道儀です。 スカイメモSは、実質的にスカイメモRSの後継となる機種で、前モデルに比べて小型・軽量化されています。

スカイメモSには、極軸望遠鏡が装備されており、 機能に制限はあるものの、デジカメのシャッターコントロールが可能と、装備が充実しています。 カラーリングもブラック、シルバー、レッドが用意されていて、 ユーザーの好みに合わせて色合いを選ぶことができます。

スカイメモSは、他社製ではオプション設定の極軸望遠鏡が標準装備されているにも関わらず、 実売価格は4万円弱と、手に入れやすい価格設定が一番の魅力だと思います。 オプションが充実していけば、一段と魅力が高まってくるポタ赤だと思います。

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関連記事:SWAT-200の実写レビュー

2016年4月改訂・追記
2017年11月追記
2018年4月追記