双眼鏡の選び方

双眼鏡は多機能に使える優れた光学製品です。 用途は広く、バードウォッチングや野球観戦、それにコンサート観劇にも使用できまし、 航海の計測器としても用いられています。

もちろん、星空観測用としても、その優れた光学性能を発揮してくれます。 気軽な星空観望から彗星探索まで、双眼鏡は天体観測の分野で幅広く使用されています。 私も星空撮影に行く際には、双眼鏡を常に携行し、綺麗な星空を双眼鏡で楽しんでいます。 双眼鏡が一台あれば、いろいろなシーンで重宝することでしょう。


こういう双眼鏡は避けよう

双眼鏡は用途が広いので、天体望遠鏡以上に多くの種類が販売されています。 そのため、双眼鏡は多くの量販店で売られていて、 非常に高価な製品から安価な製品まで、様々な価格帯の製品が出回っています。

粗悪な製品になると、双眼鏡の左右の光軸が合っていないこともあります。 こうした双眼鏡を覗くと、頭がクラクラしてくることもあるほどです。 こうした粗悪な双眼鏡は、たいていの場合、高倍率をキャッチフレーズにして販売されています。

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とこんな感じです。 こうした双眼鏡の見え味はどのようなものでしょう。

まず双眼鏡の場合は、接眼レンズを変えることはできません(一部、大型双眼鏡では変えられるものもあります)。 そのため、双眼鏡の倍率は、通常は固定になっています。 この点は、接眼レンズを変えることで、自由に倍率を変えることができる天体望遠鏡と異なる点です。

天体望遠鏡と同様、倍率が高くなると像が暗くなり、見づらくなります。 倍率が高くなれば見やすくなるような気がしますが、像は極端に暗くなりますし、 手ぶれの影響も出てきて、逆に像を鮮明に見づらくなってしまいます。 ですから、必要以上に高い倍率を買い求めないようにしましょう。

そういうことを考えると、100倍と言った極端な高倍率を売り文句にしている双眼鏡は、 なるべく避けた方が良いでしょう。 こういう双眼鏡を購入しても期待通りの性能が発揮できず、 そのうち使わなくなって、タンスのどこかにしまい込んでしまうかもしれません。


双眼鏡はシビアな光学系

私の星空観察用双眼鏡 高い倍率を売り文句にする安価な双眼鏡は危険と言うことがわかりました。 となると、双眼鏡はやはり高いものなのでしょうか。

双眼鏡というと量販店で安く売られている品が多いためか、とても簡単な光学系と思いがちです。 双眼鏡の外観も、望遠鏡を二つ横に並べたような構造をしていますよね。

しかし実際は、双眼鏡の中にはプリズムと呼ばれる光を折り曲げるガラスが入っていて、 精巧に加工されて組み立てられています。 二つの望遠鏡を組み合わせて一つの光学系にしているので、 二つの筒は正確に光軸という光の軸が合っている必要があります。 高い組み立て技術が必要というわけです。

双眼鏡で使われているレンズの枚数も、天体望遠鏡以上に多く使われていて複雑になっています。 たくさんのレンズやプリズムを使うので、個々の品質が悪いと、見える像は著しく悪くなります。 そのため、品質良く製造すれば、ある程度の価格になってしまいます。

そういうことを考慮すると、あまりに安い価格では、しっかりとした双眼鏡を作れないのがわかります。 ですので、本当に使って楽しい双眼鏡が欲しいと思えば、 精度のよいレンズと、信頼できる技術で作られた双眼鏡が必要で、それなりの出費が必要になってきます。


双眼鏡の価格

スワロフスキーの双眼鏡 双眼鏡には様々なモデルがあり、値段の幅もとても広いです。 天体望遠鏡の場合には、同じ口径であればそれほど値段に差はないのですが、 双眼鏡の場合は、同じ口径でもメーカーによって値段に大きな差があります。

例えば、バードウォッチャーに人気があるライカ(Leica)やスワロフスキーの5センチの双眼鏡は、 軽く20万円以上の価格です。 ニコン製の同口径双眼鏡は、高いモデルでも10万円。安いモデルだと2万円台後半でよく売られています。 どれも同じ5センチの口径ですが、ものすごい価格の差ですよね。

この双眼鏡の製造メーカーによる大きな値段の差は、どちらかというとブランドの差と言ってよいと思います。 例えば、ライカの25万円の双眼鏡の方が、ニコンの高級モデルよりも見えるかというと、 必ずしもそうではありません。逆であることも起こりえます。

ただ同メーカーになると、価格が高い方が性能が良くなることがほとんどです。 ニコンの2万円のモデルよりも高級モデルの方が、覗いたときの視界が広く、像も色づきが少なくてすっきりしています。

こんな話をすると、双眼鏡を買うなら10万円以上の出費が必要に思ってしまいますが、そんなことはありません。 2万円前後で十分楽しめる双眼鏡を購入することができます。 実際、私が星空観望によく使っている双眼鏡も2万円程度の価格帯モデルです。

双眼鏡はいつも手元に置いて気軽に使いたいので、 最初からあまり高いモデルを購入するのは避けた方がいいと思います。


双眼鏡のスペック

口径42mm7倍の双眼鏡 双眼鏡も天体望遠鏡と同じで、口径が大きいほど取り込める光の量が多くなり、 小さなところを見分けられるようになります。

といっても、双眼鏡は手に持って使用するのが普通ですから、あまり大きなモデルでは保持しているのが大変です。 使いやすさを考えると、双眼鏡の口径は、5センチ前後までにしておきましょう。 それ以上の口径のモデルは、カメラ三脚に取り付けて使うのが基本となります。

口径以外に気にすべき点は、倍率です。 倍率が高くなると、当然ながら小さな物が大きく見えます。 しかしあまり倍率が高くなると像は暗くなりますし、手ぶれも発生し易くなります。 星空観望用なら10倍前後で、最高でも20倍くらいにしておきたいところです。

その他に重要なポイントとしては、見かけ視界があります。 これは双眼鏡を覗いたときの見かけの視界で、○○度と表されます。 安価なモデルは、たいていこの値が小さいため、双眼鏡を覗くと視界が窮屈に感じられます。 できれば、見かけ視界が広いタイプを選びましょう。 50度以上のものをお勧めします。

ちなみにこの見かけ視界というのは、双眼鏡のスペックシートには、あまり記載されていません。 その代わりに実視界という値が書かれています。 実視界は、双眼鏡で見えている実際の視界の角度です。

見かけ視界は「見かけ視界=実視界×倍率」で求まりますので、双眼鏡を購入するときにはちょっと計算してみましょう。 例えば、実視界が5度で倍率が10倍なら、見かけ視界は50度となります。

※上記の見かけ視界の計算式は、旧JIS規格に基づいています。 ISO規格(ISO14132-1:2002)および、新しくなったJIS規格では、 下記のような定義に変更されています。
tanθ= δ× tanω(見掛け視界:2θ、実視界:2ω、倍率:δ)

この新計算式を用いると、倍率8倍で実施界8.2度の双眼鏡の見かけ視界は約60度になります。 旧JIS規格では約65度でしたから、若干狭くなったことになります。

計算式が変更されただけですので、双眼鏡の視界が実際に変わったわけではありません。 双眼鏡の見かけ視界の値をスペックシート等で比較する際には、 同じ規格で数値が表示されているかどうか、注意するようにしましょう。


ポロタイプとダハタイプ

ライカの双眼鏡 双眼鏡の構造は、ポロタイプとダハタイプの大きく二つに分けられます。 この二つのタイプの違いは、プリズムの構造の違いです。 外観はダハタイプの方がスマートで、コンパクトな形をしています。 右はライカ製のダハタイプ双眼鏡です。スマートな姿をしていますよね。

昔はダハプリズムの製造が難しかったので、ダハタイプはポロタイプに比べると像が悪く、 星空観望用には人気がありませんでした。 しかし最近は、コーティング技術が改善されて、星空観察に十分使えるモデルに仕上がっています。

コンパクトさが魅力のダハタイプですが、販売価格がポロタイプの双眼鏡と比べると、一般的に高くなっています。 双眼鏡メーカーによっては、同じ口径でも倍の値段が付けられていることもあります。 ダハタイプは、デザインにこだわる方や、コンパクトな双眼鏡が欲しい方向けでしょう。 なお、このダハタイプは製造が難しいので、あまり安いモデルに飛びつくのは危険です。 信頼の置ける有名メーカー品をお勧めします。


双眼鏡で星空を見る楽しみ

夏の天の川 双眼鏡で楽しむ星空は、天体望遠鏡とはまた違った魅力があります。 双眼鏡はその名の通り双眼で覗くので、自分の眼の延長という感覚があります。 ほんとうに自然に使えるので、自分の眼の視力が、何倍にも増したようにも感じられます。

星空の綺麗なところに行ったとき、双眼鏡で眺める星空は格別です。 夏の天の川に双眼鏡を向ければ、白い雲のような天の川が星の集まりであることがたやすくわかります。 また、天の川の中で浮かぶ星雲も、ボンヤリと観察することができます。 こうした淡い星雲は淡く広がっているので、天体望遠鏡よりも双眼鏡の方が綺麗に見ることができます。 地球に近づく、彗星の観望にも双眼鏡は適しています。

もちろん都会の空でも、双眼鏡を使えば普段見えない星々を見ることができます。 こうした都会で星を観察する用途には、少し高めの倍率の双眼鏡が適しています。 高い倍率だと背景が暗くなり、星が見やすくなるからです。

しかし、双眼鏡の本領が発揮されるのは、星空の綺麗な場所での観望でしょう。 夏なら天の川に散らばった星団や星雲を見ることができます。 冬ならオリオン大星雲が美しいでしょう。 月のクレーターや木星の縞模様も確認することができますが、こうした対象には天体望遠鏡の方が適しています。 高倍率が必要な天体を双眼鏡で見るときには、あまり期待しすぎるのはよくないでしょう。


野球観戦やコンサート観劇にも使える双眼鏡

観劇の様子 双眼鏡の良いところは、星空観望以外の用途にも使えることです。 コンサートや観劇、野球観戦にも双眼鏡は活躍します。 私自身、時々、観劇や野球観戦に出かけますが、その時には双眼鏡を必ず携行しています。 ステージから遠い後方の席からでも、双眼鏡を使うと、舞台が間近に迫ってきて、 スターの迫力ある演技を楽しめます。

こうした用途には、少し高い倍率の双眼鏡が向いています。 私は星空観望には主に倍率7-10倍の双眼鏡を使っていますが、こうした用途には 18倍のモデルを使用しています。 もし観劇や野球観戦を中心に使うご予定でしたら、15倍前後の倍率の双眼鏡をお薦めします。


手ぶれ補正機能付き双眼鏡

キャノン18x50IS双眼鏡 最近のカメラレンズには、手ぶれ補正機能がよく付いていますが、 双眼鏡にもこの機能が付いたモデルがあります。 こうした双眼鏡は、防振双眼鏡とも呼ばれて、カメラ店などでも販売されています。 手ぶれ補正が付いているため高価ですが、魅力的な双眼鏡の一つです。

私は右上のキャノン18x50IS双眼鏡を使っていますが、この手ぶれ機能は素晴らしいものです。 双眼鏡を覗きながら手ぶれ補正ボタンを押すと、今まで揺れていた世界が止まって見えます。 手ブレが収まるので、今まで見えなかった細かい模様まで見分けることができ、初めて使用したときには驚きましたです。 機会があれば、お店で実際に触って体験してみてください。

なお、手ブレ防止双眼鏡は、電池が必要となりますので、同クラスの他のモデルと比べると、本体が少し大きく重くなっています。 ですから、あまり長時間持っていると疲れるかもしれません。 手ブレ機能付き双眼鏡を星空用途で使うなら、口径が一回り小さなモデルでもよいかもしれませんね。

ちなみにこのキャノンの18x50IS双眼鏡は、見かけ視界が67度と非常に広いタイプです。 レンズにUDレンズが使われているので、色収差も感じられず、すっきりした広い視界を楽しめます。 星空観望だけでなく観劇にも使っていますが、 手ブレが発生しないので、舞台に立つ役者さんを綺麗に見ることができます(大きい双眼鏡なので周りの方にビックリされますが)。 少し高価なモデルですが、大きさが気にならなければ、星空観望用の双眼鏡として、選択肢に入れてみてもよいモデルと思います。


大型双眼鏡

宮内10センチ双眼鏡 星空を両眼で眺める楽しみを知ってしまうと、もっと口径の大きな双眼鏡が欲しくなります。 こうした双眼鏡は、大型双眼鏡や大型双眼望遠鏡と呼ばれていて、星空観望ファンの憧れの的となっています。

こうした大型双眼鏡をいきなり購入する方は希なことで、たいていは、 小さな双眼鏡を何台も買ってから検討するのがこのタイプとなります。 この大きさの双眼鏡になると、製造しているメーカーは限られ、 ニコン、フジノン、ミヤウチ、ビクセンなどの製品が有名です。 私は右上のミヤウチの口径10センチ双眼鏡を使用しています。 ミヤウチの双眼鏡は、一般にはあまり知られていませんが、造りがしっかりしていて、口径を考えるとコストパフォーマンスが高い製品です。

こうした双眼鏡を選ぶ際に注意したいのは、レンズに使っているガラスの種類です。 口径5センチ程度の双眼鏡ならば、通常の材質のレンズでも問題ありませんが、 口径が大きくなると色収差の影響が無視できなくなります。 できれば、EDレンズやフローライトレンズを使用したアポクロマートタイプを選びましょう。 大型双眼鏡になると、レンズの材質の違いは、思っている以上に見え味に響いてきます。

また、大きな双眼鏡は手持ちで見ることは不可能ですから、三脚への取り付け方法をしっかりと考えておきましょう。 いくら高性能の双眼鏡でも架台がグラグラしていては使い物になりません。 大型双眼鏡の購入前には、専用三脚や雲台が用意されているか等、固定方法についてもチェックしておきましょう。

双眼鏡の具体例

Canon 双眼鏡 10×42 L IS WP
キャノン防振双眼鏡10×42L ISWP

キャノンが製造・販売している防振双眼鏡のフラッグシップモデルです。 「天体観測用のスペックを搭載した防振双眼鏡がついに出た!」と発売時には天文界で話題になったモデルです。

レンズにはUDレンズを使用して色収差を補正し、見かけ視界も65度と広くて快適です。 ボディも完全防水ボディとなっていて、夜露にさらされても安心です。 非常に高価な一台ですが、一生ものとして考えればよいかもしれません。 キャノンLレンズの印、赤ラインがボディで輝いています。

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ニコン双眼鏡アクション8x40
Nikon アクションEX 8X40CF

幅広いユーザーに人気があるニコンの双眼鏡です。 ニコン双眼鏡のラインナップは広く、様々なタイプがあります。 その中でもこのアクションEXは、見かけ視界が広くて、星空観望や観劇にお勧めできるモデルです。

双眼鏡の作り自体はしっかりしていて、窒素ガスを充填した完全防水設計になっています。見 かけ視界も65度と広いので、快適な視界を楽しめます。 また、アイレリーフも長めになっているので、眼鏡をかけた方でも覗きやすいでしょう。 価格的にも2万円前後なので、初めての双眼鏡を購入する方にもお勧めできるモデルだと思います。

アクションEXシリーズにはこの他にも、口径50ミリのモデルと35ミリの双眼鏡があります。 35ミリは同じように視界が広くてお勧めですが、50ミリの低倍率モデルは視界が狭くなっています。 購入するなら、使いやすいこの40ミリのモデルか35ミリのモデルがお勧めです。

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コーワ双眼鏡8x32 DCF
コーワ双眼鏡 BD32-8GR[8x32DCF]

バードウォッチング用として人気のあるコーワの双眼鏡です。 ダハタイプなので、コンパクトで軽いのが特徴です。 天体観測用としては口径が32ミリと少し小さめですが、コーティングなどの光学性能はとても良い双眼鏡です。

実際に使ってみましたが、双眼鏡を覗くと明るい視界を楽しめました。 見かけ視界も60度と広いのも好印象です。 焦点が合う範囲も広いので、星だけでなく一般的な用途にも使いやすい双眼鏡です。 少し小さめのコンパクトな双眼鏡を探されている方には、お勧めの一台だと思います。

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