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ヘルクレス座 Hercules

ヘルクレス座の写真 ヘルクレス座は、夏に見頃を迎える星座で、8月下旬なら20時頃に南中します。 ギリシア神話に登場するヘラクレスを形どった星座で、全天で5番目に大きな星座です。

ヘラクレスと言えば、ギリシア神話の随一の英雄ですが、星座を構成している星は、 3等星より暗い星ばかりで、夜空の中ではあまり目立ちません。 その上、大きな星座のため、全体を把握するのは難しく、夜空の明るい都会の空では、 星座を構成する星が一つも見えないこともあります。

ヘルクレス座を見つけるには、こと座のベガとかんむり座を目安にして、 まずは星座のおおよその場所を把握しましょう。 次に、ヘルクレス座の胴体で輝く6つの星を探します。 6つの星は、やや中央が凹んだ「H」の形をしているので、よい目印になります。 その後は、頭部や手足を構成する星々を繋いでいけば、 夜空で輝く勇者の形の完成です。 星座の形自体はよくできているので、星を繋げられると、夜空で輝くヘラクレスの姿が想像できると思います。


ギリシア神話でのヘルクレス座

ヘルクレス座のモデルとなったのは、ギリシア神話の英雄ヘラクレスです。 ちなみに、星座は「ヘルクレス」、ギリシア神話に登場する英雄は「ヘラクレス」と呼ぶのが一般的です。

ヘルクレスは、ミュケナイ王エレクトリュオンの娘アルクメネ王女とゼウスの間にできた子供です。 当時、アルクメネ王女には、夫アムピトリュオンがいましたが、 以前からアルクネメ王女の美しさに惹かれていたゼウスは、 夫が遠征に出かけた隙に、夫に化けて一夜を過ごします。

やがて、アルクネメ王女からは、ゼウスの子「ヘラクレス」とアムピトリュオンの子「イピクレス」の双子が生まれました。

ヘラクレスの誕生を喜んだゼウスですが、妻ヘラは夫の浮気の恨みをヘラクレスにぶつけます。 まずヘラは、ミュケナイの王になるはずだったヘラクレスの誕生を遅らせ、 エウリュステウスにミュケナイの王の座を与えます。

次に生後8ヶ月の赤ん坊だったヘラクレスに毒蛇を送り、抹殺を図りました。 しかし、怪力ヘラクレスは毒蛇を掴み絞め殺してしまいます。 この後もヘラクレスに対してのヘラの迫害は続きますが、超人的な力を発揮したヘラクレスは、 数々の困難を乗り越えていきました。


ヘラクレスの12の難業

ヘラクレスの活躍物語の中でも、12の難行は人気があります。 難業に登場する動物は、星座に馴染みのあるものもいます。 ここでは、難業を与えられた経緯と、12の難業について触れてみたいと思います。

12の難業の経緯

ヘラクレスは、テバイ国の王女メガラと結婚します。 子供たちと幸せに暮らすヘラクレスでしたが、ある時、ヘラの呪いにより狂ったヘラクレスは、 わが子たちを殺してしまいます。

我に返った後、絶望したヘラクレスは、デルポイでアポロンの神託を授かります。 神託の内容は「ミュケナイ王エウリュステウスに仕え、王が課す12の難業を成し遂げれば、自由の身になる」というものでした。

エウリュステウスといえば、ヘラの計略により、ヘラクレスより僅か先に生まれて王を授かった人物です。 ヘラクレスを疎ましく思ったエウリュステウスは、ヘラクレスに12の難業を命じます。

第1の難業 ネメアのライオン退治

第一の難行は、ネメアの谷に住むライオンを退治して皮を持ち帰ることでした。 このライオンは、弓矢が貫通しない強靭な皮膚を持つ獣でしたが、 ヘラクレスは棍棒で追い立てて、洞窟まで追い詰めると、素手でねじ伏せて窒息死させてしまいます。 見事、ライオンの皮を持ち帰ったヘラクレスですが、 それ以後、エウリュステウスは恐れをなして、ヘラクレスが凱旋するたびに隠れてしまったということです。

なお、ネメアのライオンは、死後、夜空に上げられて「しし座」となって輝いています。

第2の難業 ヒュドラ退治

レルネの沼に9つの頭を持つ怪獣ヒュドラがいました。 このヒュドラは頭を切り落としても、また生えてくるという恐ろしい怪物で、 ヘラクレスは甥のイオラオスと共に戦いに挑み、ヘラクレスが頭を切り落とすと、 イオラオスがその切り口を燃やすという手法で、退治しました。

このレルネの沼のヒュドラは、うみへび座として輝いています。

第3の難業 ケリュネイアにいる鹿の生け捕り

ケリュネイア山には、黄金の角を持つ鹿がいました。 この鹿はアルテミスに捧げられた動物で、傷つけることができません。 そこでヘラクレスは、鹿を1年に渡って追跡し、鹿がスピードを落とした隙に生け捕りしました。

第4の難業 エリュマントスの猪の生け捕り

エリュマントス山から麓に下りて、周囲の街を荒らしていた猪を、 雪の中に追い込み、疲れ果てたところに縄をかけて生け捕りしました。

第5の難業 アウゲイアスの家畜小屋掃除

エリスの国王アウゲイアスは、3000頭の牛を収容する家畜小屋を持っていましたが、 30年間掃除したことがありませんでした。 ヘラクレスは、近くの川から水を引き込み、家畜小屋の掃除を完遂しました。

第6の難業 ステュムパリデスの鳥退治

ステュムパリデスの森に住み、近隣の田畑を荒らしていた怪鳥達を、 女神アテナから授かった青銅製のガラガラを打ち鳴らして追い立てた後、 弓矢で射落としました。

第7の難業 クレタの暴れ牛の生け捕り

クレタ島を荒らしていた凶暴な牛を追いたて、生け捕ってミュケナイに持ち帰りました。

第8の難業 ディオメデスの人食い馬の生け捕り

トラキア国の王ディオメデスが所有していた人食い馬を生け捕りにしました。

第9の難業 アマゾン女王の帯の奪取

軍神アレスを奉るのが女戦士軍団アマゾン族。 その女王が持つ帯をエウリュステウスの娘が欲しがったため、ヘラクレスは遠征に出ることになりました。

最初は快く譲ってくれるアマゾン女王でしたが、女神ヘラが流したデマにより、 ヘラクレスはアマゾン族と戦うことになってしまいました。 結局、ヘラクレスは女戦士たちを倒して、帯を奪取しました。

第10の難業 ゲリュオンの赤い牛の生け捕り

世界の果てのオケアヌスに近いエリュティアまで出かけて、ゲリュオンが飼っている赤い牛を生け捕りにしました。 旅の途中、ヘラクレスは巨大な柱を建てますが、この柱に挟まれた海が、 現在のジブラルタル海峡と言われています。

第11の難業 ヘスペリデス園の黄金のリンゴ

ガイアがゼウスとヘラの結婚祝いに黄金のリンゴを送りましたが、 この黄金のリンゴは、アトラスの娘たちが住むヘスペリデスの園で、不死の100の頭を持つ竜に守られていました。

ヘラクレスは、天空を支え続けるという罰を受けたアトラスのもとへ行き、 代わりに天空を一時支えるので、リンゴを持ってきてくれるように頼みます。 アトラスは提案を受け入れ、リンゴを持って帰ってきますが、 再び天空を支えることを拒否します。

ヘラクレスは、体勢を変える少しの間だけ持って欲しいとアトラスを騙し、 アトラスが天空を支えた隙にリンゴを奪って、逃げさりました。

第12の難業 ケルベロスの生け捕り

ケルベロスは、3つの犬の頭と竜の尾を持ち、冥界の入り口を守っている恐ろしい番犬です。 ヘルメスとアテナの導きによって冥界に入ったヘラクレスは、 ケルベロスを素手で捉えて、難業を成し遂げました。


ヘルクレス座の主な星

ラス・アルゲティ

ラス・アルゲティは、ヘルクレス座のα星で3等級の星です。 アラビア語で「ひざまずく者」という意味の星です。 3等級と暗いため、都会の夜空では見ることが難しい星です。 ラス・アルゲティのすぐ近くには、へびつかい座のα星ラス・サルハゲが輝いています。 名前が似ているので、少し紛らわしいかもしれません。


双眼鏡や天体望遠鏡で見るヘルクレス座

M13

ヘルクレス座にあるM13球状星団は、北天一美しい球状星団として知られています。 見かけの大きさも北天では最大で、小さな望遠鏡でも観望を楽しめる貴重な天体です。 特に日本では、南中すると真上に位置するので、気流の影響も受けづらく、大変見やすい天体です。 公共天文台の観望会でも人気がある天体の一つです。

M92

ヘルクレス座の球状星団と言えば、北天で最大といわれるM13が有名ですが、 M92星団もなかなか見応えがある球状星団です。 M92の視直径は10秒ほどあるので、双眼鏡でもまるい星雲状に見えてきます。 口径10センチ程度の天体望遠鏡を使えば、丸いボール状の天体が恒星の集まりだということがわかります。

M92星団は1777年にボーデによって発見されたもので、メシエは1781年に観測してメシエ天体リストに加えています。 球状星団の実直径は88光年と考えられていて、絶対等級はマイナス7.8等の星団です。

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