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初めての電視観望

星空の新しい楽しみ方として、電視観望が注目されています。 電視観望に興味を持った初めての方向けに、電視観望用の機材の選び方から、簡単な撮影方法まで説明しています。

電視観望とは

電視観望とは、天体望遠鏡に接眼レンズを差し込む代わりに、天体用のCMOSカメラやデジタルカメラを取り付け、 パソコンの画面に天体の姿を映し出して楽しむ観望方法です。

電視観望の様子

電視観望で映し出した、はくちょう座のペリカン星雲

天体用のCMOSカメラは感度が高く、設定も様々に変更できるので、 肉眼での観望では見えづらい淡い天体を、明瞭にパソコンやスマホの画面に映し出すことができます。

また、星空の綺麗な郊外に行かなくても、夜空の明るい都会にいながら天体の観望を楽しむことができるのも、 電視観望が注目されている理由の一つです。

電視観望に必要な機材

電子観望には、天体望遠鏡一式(天体望遠鏡と赤道儀)に加え、CMOSカメラが必要です。 それにお手持ちのノートパソコンがあれば電視観望は可能ですが、 都会で撮影する場合は、光害の影響を減少させるフィルターがあると便利です。 以下、機材を選ぶポイントを列挙しました。

撮影対象を決めよう

電視観望の機材を購入する前に、どんな天体を見たいかを決めておきましょう。 というのも、天体望遠鏡とCMOSカメラの組み合わせによって、画面に映し出せる範囲(画角)が異なるためです。

電視観望の対象

系外銀河や惑星状星雲は小さく、星雲は大きく広がっている

例えば、淡く大きく広がった星雲を電視観望で楽しみたい場合は、 焦点距離が短い望遠鏡とセンサーサイズが大きなCMOSカメラが適しています。

一方、春の時期によく見える渦巻銀河や、都会でも映しやすい惑星状星雲を電子観望したい場合は、 焦点距離が長めの望遠鏡やセンサーサイズが小さなカメラが向いています。

初めて電視観望をするなら、淡く広がった星雲よりも、明るい星雲や系外銀河が向いていると思います。 まずは、それを前提に機材を選んでみましょう。

電視観望に使う天体望遠鏡

電視観望では、短時間露光した撮影画像を重ね合わせて画面に映し出すので、 F値の明るい光学系の方が、1枚当たりの露光時間が短くなってリアル感が増します。 望遠鏡の口径比がF5より明るい光学系を選ぶとよいでしょう。

電視観望の機材

口径5.5cmのビクセンFL55SS。最初はコンパクトな機材が使いやすい

望遠鏡の焦点距離は、長いほど天体が大きく映りますが、最初は300ミリ程度あれば十分楽しめます。 具体的なスペックとしては、口径6センチで焦点距離300ミリ前後の機材が、価格的にも手に入れやすく、 初めての方にもお勧めできると思います。

また、望遠鏡ではなくてもカメラ用の望遠レンズでも電視観望は楽しめますので、 200ミリ前後の望遠レンズをお持ちなら、まずはそれを使って初めて見てはいかがでしょうか。

天体用CMOSカメラ

デジタル一眼レフカメラやミラーレス一眼でも電視観望は可能ですが、 電視観望用のソフトウェアが非対応の場合も多いため、本格的に楽しむなら天体用CMOSカメラを使用することをお勧めします。

現在、天体用CMOSカメラは、様々なメーカーから発売されていますが、 手軽に電視観望を楽しむなら、メーカー純正のソフトウェアが充実しているZWO社のASIシリーズが使いやすいと思います。

電視観望用のカメラ

1インチセンサーが搭載されたZWO社のカメラ
現行モデルではASI533MCProが使いやすそうだ

ZWO社のCMOSカメラには、様々な種類のカメラがラインナップされていますが、 CMOSセンサーの大きさが1インチ前後の機種が、電視観望には使用しやすいと思います。

なお、天体用CMOSカメラには、カラーとモノクロモデルがラインナップされていますが、電視観望にはカラーモデルが適しています。 また、センサーを冷却する機構が付いた冷却モデルと非冷却モデルがありますが、 冷却モデルの方がノイズが少なく、天体撮影にも使用できるので、予算に余裕があれば、冷却モデルをお勧めします。

赤道儀について

月や惑星を天体望遠鏡で見るのとは異なり、電視観望では同じ天体を撮影し続けるので、 星の動きを追いかける架台(赤道儀)が必要になります。

赤道儀には様々な種類がありますが、上記した小さな望遠鏡やカメラレンズ使って、 電視観望だけを楽しむなら、軽量でコンパクトな架台で十分です。

電視観望用の赤道儀

スカイウォッチャーのStar Adventurer GTi赤道儀。手ごろな価格で人気がある

一方、電視観望だけでなく、天体撮影も楽しみたい場合は、 搭載重量にもう少し余裕がある赤道儀を購入しておくと、両方に使えて効率的でしょう。

なお、最近の赤道儀には、自動導入機能が標準搭載されていますが、 古い機種や安価な赤道儀には搭載されていないことがあります。 電視観望では自動導入機能は必須とも言える機能ですので、この点をチェックしてから購入しましょう。

パソコンについて

電視観望には、カメラが捉えた画像を写し出すパソコンが必要です。 デスクトップパソコンでも可能ですが、屋外でも使いやすいノートパソコンがよいでしょう。

マシンパワーはそこまで要求されませんが、Core i5程度のスペックのパソコンが安心です。 また、撮影画像を素早く転送するため、USB3.0以上の端子が付属したモデルを選びましょう。

なお、ZWO社のCMOSカメラの場合は、ASIAIRを使ってタブレットやスマホでも電視観望も楽しむことができます。 ASIAIR PlusやASIAIR miniというwifiデバイスルーターが別途必要ですが、 電視観望時にパソコンを使いたくない方は検討してみてはいかがでしょうか。

フィルターについて

夜空の明るい都会で電視観望をする場合は、光害をカットする効果のあるフィルターを用いると、 星雲や銀河の姿が見やすくなります。

天体用の光害カットフィルターには、大きく分けて2種類あります。 まず一つ目は、外灯が発する波長の光だけをカットして、天体のコントラストを上げるものです。 アイダス社のLPSシリーズが代表的な製品で、光害カットフィルターの定番です。

アイダスの光害カットフィルター

アイダスのNBZフィルター。星雲の光だけを通すのでコントラストが高く写る

もう一つは、星雲が輝いている波長だけを通すタイプのフィルターです。 このタイプのフィルターは、上記のフィルターよりも通す光の波長が狭いため、 大部分の光害をカットし、星雲をはっきりと映し出してくれます。ナローバンドフィルターと呼ばれています。

代表的なフィルターとしては、アイダス社のNBZフィルター、サイトロン Dual BPフィルター等があります。 本来、星雲用で連続光で輝く系外銀河には適さないフィルターですが、 都会での電視観望に限って言えば、有効に働くことが多いので、用意しておきたいフィルターです。

電視観望を始めてみよう

機材の準備が整ったら、電視観望を実際に行ってみましょう。 このページでは、ZWO社のCMOSカメラと、同社の純正アプリケーションASI Liveを使用して、 電視観望を楽しむ手順を説明しています。

電視観望ソフトをインストール

まず、ZWO社の公式ページからASI Studioをダウンロードし、パソコンにインストールしてください。 インストールが成功すると、ASI Studioのダイアログボックスが表示されます。

電視観望のアプリ

ASI Studioの起動画面。電視観望ではASILiveを使用する

ASI Studioは、電視観望以外にも天体撮影用や動画撮影用などいくつかのアプリで構成されています。 今回は電視観望ソフトのASI Liveを使用します。

ASI Liveを起動

天体望遠鏡の設置後、ZWO社のCMOSカメラをパソコンに接続し、ASI Studioを起動して、ASI Liveを立ち上げましょう。

電視観望のアプリ ASILive

右側でカメラの設定。左側が映像表示エリア

ASI Liveの画面構成は、上画像の通りです。右側にカメラの設定項目が並び、 左側の大きなキャプチャー画面にCMOSカメラが捉えた映像が表示されます。

カメラを接続

ASI Live右側の設定項目上部からカメラを選び、アプリにカメラを認識させます。 カメラが認識されたら、感度や撮影時間を設定して、ピントを合わせましょう。

電視観望のアプリ ASILive

まずはカメラを接続。次に明るい星を視野内に入れてピントを合わせよう。

まず初めは、ゲイン「高」、撮影時間「1秒」、ビニング「bin4」に設定し、 キャプチャー画面に表示される星を見ながらピントを合わせると行ないやすいでしょう。

撮影開始

星が十分に小さくなり、ピントが合ったら、撮影時間を2~5秒程度に変更し、電視観望を始めましょう。 冷却機構が付属しているCMOSカメラの場合は、希望の冷却温度に設定するのを忘れないようにしましょう。

電視観望のキャプチャー開始 ASILive

赤道儀の自動導入機能を使って天体を導入。導入出来たら撮影開始

設定項目の下部にある大きな右矢印ボタンを押すと、画像のスタック(重ね合わせ)が始まります。 スタック後の映像は画面左側に映し出され、指定フォルダにスタック後の画像が保存されます。

もし映し出された画像が暗い場合は、撮影時間を増やしてみましょう。 スタック開始のボタンの下には、ヒストグラムや画像処理の項目が並んでいますが、デフォルトでも十分綺麗な画像が映し出されます。

更に美しく撮ってみよう

いくつかの天体を観望してASI Liveの操作に慣れてきたら、 電視観望の天体の明るさ等に合わせて、CMOSカメラの設定を変更してみましょう。

例えば、感度を下げると、映像が暗くなりますが、ダイナミックレンジが広がり、明るい部分が飽和しにくくなります。 オリオン座の大星雲など、輝度差の激しい天体に有効ですので、試してみましょう。

電視観望で撮った画像

電視観望で撮った網状星雲。数多くスタックすればプリントも可能だ。

また、ビニングを減らすと感度は落ちますが、解像度は増します。 保存されたスタック画像を画像処理ソフトで開いて、加工後にプリントする場合等に有効です。 いろいろな設定を試すことができるのも、電視観望の楽しみの一つです。 好みや目的に合わせた設定を探してみてください。

スマホやタブレットで電視観望

ZWO社のCMOSカメラなら、ASIAIRを追加することで、スマホやタブレットで電視観望を楽しむことができます。

ASIAIR Plus

ZWO社のASIAIR Plus。電視観望だけでなく天体撮影も可能なWifiデバイスだ

ASIAIRは、ZWO社が開発したスマートWi-Fiデバイスです。 2023年現在、ASIAIR PlusとASIAIR miniが発売されており、これらに同社のカメラを繋ぐと、 無線LAN経由でスマホやタブレットから機器を動かすことができます。

スマホやタブレットを使って、どこでも手軽に電視観望や天体撮影を楽しむことができるのがメリットです。 パソコンを使った電視観望に慣れてきたら、ASIAIRも検討してみてはいかがでしょう。

スマート望遠鏡で電視観望

電視観望に注目が集まるにつれ、天体望遠鏡の中にCMOSカメラを最初から搭載して電視観望を楽しむオールインワン型の望遠鏡が登場しました。 中でも有名なのが、2020年に登場したユニステラ社のeVscope天体望遠鏡です。 現在は後継機のeVscope2がニコンから販売されています。

ユニステラeVscope2の特徴は、電子ビューファインダー(EVF)が搭載されていることです。 EVFを覗けば、天体望遠鏡のアイピースを覗いている感覚で電視観望を楽しめるのがメリットですが、 価格が60万円以上と非常に高く、プロフェッショナル向けのミラーレス一眼カメラ並みの出費が必要です。

Seestar S50

ZWO社のSeestar S50。コストパフォーマンスに優れたスマート望遠鏡

2023年夏、ZWO社からSeestar S50が発売開始されました。 電子ビューファインダーは搭載されておらず、スマホやタブレットの画面で電視観望を楽しむタイプのスマート望遠鏡ですが、 価格が7万円程度と手ごろなので、発表された時から天文ファンに注目されていました。

2023年9月、デモ機をお借りして実際に使用してみたところ、 極軸合わせが不要で、架台の水平出しをするだけで、タブレットやスマートフォンだけで自動導入から電視観望までまで行え、 手軽に電視観望を楽しめるスマート望遠鏡という印象を受けました。

Seestar S50で撮ったM16

上画像は、Seestar S50を使って、2等星がやっと見える宝塚市内から電視観望したM16星雲の姿です。 撮影中のタブレット画面をキャプチャーした画像ですが、空の暗い場所で電視観望をすれば、更に明瞭に映ると思います。

ユニステラeVscope2やSeestar S50の登場で、今後、更に電視観望は身近になってきそうです。

電視観望は手軽に楽しめる

淡く小さな銀河や天体を肉眼で見るためには、集光力の優れた口径の大きな天体望遠鏡が必要になります。 また、星空の綺麗な場所に出かける必要もあり、大きな望遠鏡を運搬するのはとても大変です。

それと比べると、電視観望は口径6センチ程度の望遠鏡でも楽しめ、手軽に持ち運びも可能です。 リアルタイム感は、眼視での天体観望に劣る面もありますが、 パソコンやスマホの液晶画面に天体の映像が表示されるので、画面を見ている仲間同士で感動を共有できる利点もあります。

今後、更にCMOSカメラの性能が上がれば、リアルタイム感も増してくるでしょう。 是非この機会に電視観望を始めて、新しい天体観測の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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