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ガイド撮影の失敗と対策

オートガイド撮影を始めてまもないころは、いろいろな失敗に直面してしまうものです。 何百ミリという焦点距離の望遠鏡を使って、小さな星を追いかけるのですから、最初は失敗するのは当然だと思います。 しかし、その失敗が続いてしまって、天体写真撮影が嫌になってしまっては、元も子もありません。

そこで、以下に私が今までに経験した失敗例と対策を、項目別にまとめてみました。 基本的にオートガイド撮影時の失敗と対策について記載していますが、 眼視ガイドの参考にもなると思います。解決の手助けになれば幸いです。


PHD2でグラフが突然暴れる

オートガイドソフトのPHD2を使用していると、 突然ガイドグラフが乱れ、元々ガイドしていた位置に星が戻ってこないことがあります。

対策:バージョンアップ後に問題が発生するようになった場合は、PHD2の古いバージョンをインストールしてみましょう。 また、一度PHD2をアンインストールして、再インストールすると改善することがあります。 もし他のオートガイドソフトをお持ちなら、そちらでオートガイドを試してみましょう。 問題の発生が機器によるものか、PHD2に起因するものかが判断できます。

PHD2の設定は通常はデフォルトで大丈夫ですが、ガイド鏡の焦点距離とオートガイダーのピクセルサイズは正確に入力しましょう。 PHD2は大変便利なフリーソフトですが、多機能になるにつれ、問題が発生すると解決に時間がかかります。 遠征する場合は、念のため、他のソフトウェア(PHD Guidingなど)をパソコンに入れておくと安心です。


ガイド星が見つからない

星が密集している天の川を写すときには問題ありませんが、春の銀河などを狙うときには、適当なガイド星が見つからないことがあります。 特にはじめてガイド撮影にチャレンジするときには、そうしたことが起こりがちです。

対策:ガイド鏡に低倍率のアイピースを差して、まずは明るい星を眼視で探してみましょう。 ガイド鏡にファインダーを付けるのも一つの方法です。 また、ピントが合っていないので、ガイド星が見つからないと思ってしまうこともあります。 BORG鏡筒をガイド鏡にお使いの場合、リングの組み合わせによっては鏡筒長が足らず、ピントが出ないことがあります。 まずは、夜景などを写してピント位置を確認してみてもよいでしょう。


オートガイダーを取り付けるとピンぼけ

上記の現象とも関連しますが、ガイド星をアイピースを使って探した後、ガイド鏡にオートガイダーのカメラを取り付けるとピンぼけに なってしまうことがあります。これは、アイピースとオートガイダーでは焦点位置が異なるためです。

対策:一番簡単な方法は、オートガイダーでピントが合う位置とアイピースの焦点位置を、ガイド鏡のドロチューブに印をつけておくことです。 また、望遠鏡ショップでは、対象確認アダプターと呼ばれる、オートガイダーと同焦点のアイピースを販売していたりします。 こうしたものを使ってみるのもよいでしょう。


明るい星を使いすぎる

1等星などの明るい星を使ってオートガイドしていると、ガイドエラーは少ないのに、撮影画像では星が流れていることがあります。 これは、ガイド星が明るすぎるためオートガイダーのCCDが飽和してしまい、追尾の僅かなズレをオートガイドダーが上手く検知できていないためです。

対策:ガイド鏡の口径や焦点距離にもよりますが、3等星以上の明るい星は、ガイド星になるべく使わないようにしましょう。 眼視ガイドでしたら明るい星でも大丈夫ですが、オートガイダーでは、ピクセルごとの明るさの変化を読み取り、 それを移動信号に変えて赤道儀を動かしています。 星が明るすぎると、その星の輝度信号が何ピクセルにも渡ってしまって、上手くガイドできない原因となります。


星が回転して写る

一見、上手くガイド撮影ができていると撮影時は思っていても、帰ってきてから画像をよく確認してみると、 写野の端の星が回転するように写っていることがあります。 いわゆる星が回転して写るという現象です。

対策:赤道儀の極軸がずれているためにこうした現象が起こります。 赤道儀の極軸がしっかり合っているか確認しましょう。 極軸望遠鏡でしっかりと合わせても、極軸望遠鏡自体が偏心して取り付けられている可能性もありますので、 何度極軸を合わせても、同じような事象が発生する場合は、極軸望遠鏡の偏心を疑ってみましょう。 電子極軸望遠鏡「Pole Master」を使用して、極軸の精度をチェックするのも良い方法だと思います。 なお、こうした星が回転して写る現象は、撮影望遠鏡の焦点距離が短いほど顕著です。


ガイドマウントのガタ

オートガイドのエラー量は小さく収まっているのに、撮影画像を見ると、星が流れてしまっていることがあります。 こうした時は、ガイド鏡の取り付け方法にガタがあって、そのガタをオートガイダーが拾っている可能性があります。

対策:ガイドマウントをしっかりと取り付けるようにしましょう。 またガイドマウント自体の強度が弱い場合は、丈夫なマウントに取り替えるか、望遠鏡を軽いものに変えてみるのも一つの方法です。 もし感度が高いCCDタイプのオートガイダーをお使いなら、ガイドマウントを取り外して、ガイド鏡をプレートに直づけするとよいでしょう。 ガイド鏡をプレートに直づけしてガイド星が見つからない場合、イメージシフトという装置をガイド鏡の接眼部に使う方法があります。 私も銀塩フィルム時代は、イメージシフトを使ってガイド星を探していました。


撮影望遠鏡のガタ

上記と同じ現象ですが、原因が撮影望遠鏡の方にあることがあります。 撮影望遠鏡の取り付けに緩みやガタがあるために、オートガイドのエラー量に問題はないのに星がずれて写ってしまうのです。

対策:鏡筒バンドの支持間隔を広げてみましょう。 メーカー純正のままの取り付け方法だと、鏡筒バンドの支持間隔は非常に狭く、震動が起こりやすくなっています。 できればプレートなどを加工して、ある程度の支持幅に広げてみましょう。これで大抵の場合改善するはずです。 K-Astecや三基光学館で製造・販売されている強度の高いオリジナル鏡筒バンドに交換するのもお勧めです。 また、望遠鏡によっては、接眼部が弱いものがあります。カメラを取り付けてグラグラするのは要注意です。 天体写真用の望遠鏡購入時は、こうした点もチェックするとよいでしょう。


望遠レンズの取り付け方法

カメラ用の望遠レンズをプレートに取り付けて撮影すると、短時間では点像に写るが、 長時間露光すると星が流れて写ってしまうことがあります。

対策:プレートへの望遠レンズの取り付け方法を見直してみましょう。 望遠レンズの回転台座は、天体撮影を想定して造られていませんので、撮影中、撓みやゆるみが発生することがあります。 できれば、望遠レンズ用のバンドや支持金具を追加して、ブレの出ないようにしましょう。 それが難しい場合は、カメラのISO感度を上げて、ぶれない範囲で撮影を行ってみてはいかがでしょう。 なお、レンズの手ブレ補正機能は必ずオフにして撮影しましょう。


赤道儀の緩み

オートガイダーのエラー量が不安定で、撮影画像を見ても何かずれたような感じに写っていることがあります。 こうしたときは、赤道儀自体がしっかり設置されていない可能性があります。

対策:赤道儀の各部取り付けネジをしっかりと締めましょう。 機材によっては、一晩の気温の変化でクランプが緩んだりするものもあります。 自動導入機能を使っていても、一晩に一度はクランプを締め直しましょう。 とは言っても、力一杯締めすぎるとウォームホイルに傷が付くので、ほどほどにしましょう。 また、安定したガイドを行う意味でも、赤道儀はなるべく水平に設置しましょう。 三脚やピラーを立てた後、水準器を使って水平を見るとよいでしょう。 三脚アジャスターなどを使うと水平を出しやすくなります。


バランス崩れ

上記と同じような現象ですが、オートガイダーのエラー量が不安定なことがあります。 こうしたときは、赤道儀に載せた機材のバランスがしっかり取れていない可能性があります。

対策:赤道儀の赤緯軸と赤経軸のバランスをしっかりと合わせましょう。 撮影鏡筒とガイド鏡を並列して赤道儀に同架している場合、撮影方向によってはバランスが変わってしまう場合があります。 そうしたときは、バランスを取り直しましょう。 場合によっては、並列方式をやめて親子亀方式に変えるのも良いでしょう。 赤緯軸周りのバランスをしっかり取るために、スライド式のプレートを使ってみるのもお勧めです。 特にモーターの力が弱い赤道儀の場合には、バランス取りは重要になってきます。


時間が経つと共にズレが大きくなる

夕方頃は上手くいっていたのに、夜中をすぎて明け方になるとガイド撮影が上手くいかないことがあります。 時間と共に赤道儀が動いてしまって、極軸がずれてしまっている可能性があります。

対策:赤道儀はなるべく固い地面の上に設置しましょう。コンクリートがベストです。 土などの軟らかい地面の上に設置する場合は、踏みならした後にフラットナーを敷いて、その上に赤道儀を設置しましょう。 アスファルトも一見固そうですが、暑い夏には柔らかくなることがあります。 できればフラットナーなどを使って、設置面積を広げた方がよいでしょう。 もちろん、極軸が合っているかどうかを夜半に確認することも大切です。


ガイドエラーが収束しない

オートガイドのエラー量が一向に収束せず、少しずつ赤道儀の修正量が増えていってしまうことがあります。 これは、赤道儀の修正動作が少なすぎるため、ガイド星のずれについていけないときに起こりがちです。

対策:オートガイダーの信号強度を増やしてみましょう。オートガイダーには、Agressivenessといった名前で、赤道儀に送る信号の強度を 変えるためのパラメーターが用意されています。この値を大きくして赤道儀をもっと動かしてみましょう。 これとは逆にエラー量が0点を境に行ったり来たりしすぎる場合は、信号が強すぎることが原因と考えられます。この値を下げてみましょう。


バックラッシュが大きい

バックラッシュとは、赤道儀コントローラーのボタンを押してから、実際に赤道儀が動き始めるまでのタイムラグのことです。 赤道儀のギアとギアの間には、遊びがあるためにこのバックラッシュが起こります。 いつも回転している赤経軸は問題ありませんが、ガイドエラーを収束するときだけ動く赤緯軸のバックラッシュがよく問題になります。

対策:バックラッシュの量は赤道儀によって違っており、赤道儀を買い換える以外に減らす方法はほとんどありません。 裏技的な方法として、左右のバランスを少しだけ崩して撮影するという方法があります。 あまり大きくバランスを崩すとギアを傷めてしまいますので、ほんの少しにしておきましょう。 なお、赤緯軸は基本的に極軸がずれているときに修正動作を行うべきものです。 ですので、極軸をしっかりと合わせて、赤緯軸の信号を切って撮影してみるのもよいでしょう。 私も天の北極付近を狙うときは、赤緯の信号は切って撮影することが多いです。


赤道儀のエラーが突発的に増える

赤道儀のエラー量を見ていると、ある点で突然増えることがあります。風などの影響がない場合には、赤道儀内部のギアに問題があることがあります。 短い間隔で起こる場合には、ウォームギアに傷があることが多く、ある向きに赤道儀を向けた場合だけ起こる場合には、ウォームホイルに傷がある 可能性があります。

対策:ウォームギアに傷がある場合には、メーカーで修理してもらう他にありません。 ウォームホイルの傷が原因と思われる場合は、その場所を覚えておいて、その部分のギアを使わないようにするとよいでしょう。 とは言っても非常に難しいので、こうした現象が頻繁に起こるなら修理に出した方がよいでしょう。


長焦点撮影でガイドが安定しない

1000ミリ以上の焦点距離で撮影していると、日によってガイドエラーが非常に大きい時があります。 これはたいていの場合は、上空の気流が乱れているためで、いわゆるシーイングが悪いために起こる現象です。

対策:天気が悪いときには星が見えないように、シーイングが悪いとどうしようもありません。 こうした日は長焦点での撮影を諦めるか、シーイングが落ち着くのを待つほかありません。 たいていの場合、夜中を過ぎると気温が安定しはじめて気流が落ち着きはじめます。こうした時間を狙って撮影するとよいでしょう。 冷却CCDカメラをお使いなら、シーイングキャンセラーと呼ばれる装置を使うことができますが、それほど効果はありません。 こうした装置も悪気流には勝てないと考えた方がよいでしょう。

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