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天体写真のピントの合わせ方

星空や宇宙の写真を撮る上で、ピント合わせは重要です。 星は点光源ですから、ピントがずれていると、星が丸くボケて写ってしまい、 ピンボケ写真であることがすぐにわかってしまいます。

しかし、星空や天体は暗いですから、よほど明るいレンズを使っていない限り、 カメラのオートフォーカス機能は働きません。 そのため、マニュアルモードでレンズのピントを合わせる必要があります。 このページでは、星空を撮影する際のピント合わせの方法について解説しています。

デジタルカメラのファインダー越しでは難しい

デジタル一眼レフカメラには、光学式ファインダーが付けられていますので、 天体望遠鏡にカメラを取り付ければ、現在、望遠鏡が捉えている視野を確認できます。 しかし、このファインダー越しの星空は意外と暗く、1等星や2等星の明るい星しか見えません。

また、デジカメのファインダーは視野の拡大率が低いため、ファンダーを覗きながら、 星に焦点を合わせるのは至難の業です。

「ファインダーを通してこれで合ったかな。」と思って撮ってみたのが下の左の写真です。 右のピントが合った写真と比べると、星が呆けているのがわかります。 ファインダー越しでのピント合わせは、おおよそのピント位置を確認することはできますが、 正確に合わせるには不向きと言えます。

ピント位置の違い

マグニファイアーを使用したピント合わせ

デジタル一眼レフカメラの機種によっては、 ファインダーの像を拡大するための「マグニファイヤー」という拡大鏡がオプションとして用意されています。 このパーツを使用すれば、ファインダーの像を拡大できるので、マクロ撮影などによく使用されています。

一般撮影には便利なパーツですが、マグニファイアーを星空撮影に使用すると、 ただでさえ暗いファインダー像が、より暗くなってしまいます。 ですから、マグニファイヤーを使うときには、まずは一等星などの明るい星を視野中央に導入し、 その星を使ってピントを合わせる必要があります。

しかし、マグニファイアーを使ったこの方法は、慣れないとなかなか難しいものです。 ファインダースクリーンを、明るい透過式スクリーンに交換できるデジタル一眼レフカメラなら、 視界が明るくなるため、まだ合わせやすいですが、 ファインダースクリーンを交換できるデジタル一眼レフカメラは希でしょう。

星空撮影において正確にピントを合わせるなら、デジカメのライブビューモードを使った方法や、 実際に撮影して、液晶モニターで星像を確認する手法が手軽で確実です。

デジタルなら撮ってみるのが一番確実

デジタル一眼レフカメラ デジタル一眼レフカメラなら、撮った画像をすぐに背面の液晶モニターで確認できます。 この便利な機能を生かさない点はありません。 まずは、この試し撮り法を使ったピント合わせの手順をご紹介しましょう。

まずはじめに、視野中心に明るめの星(2等星くらいの恒星)を導入します。 例えばオリオン座の星々ですと、三ツ星のどれかの星が最適です。 そしてファインダーで星を見ながら、ある程度までピントを追い込みます。

次にシャッターを切るわけですが、その前にデジタル一眼レフカメラのISO感度を常用感度一杯まで上げておきましょう。 感度を一時的に上げるのは、短い露出時間でも星が明るく写るようにするためです。 感度をISO3200などに設定したら、数秒の露光時間で星をテスト撮影してみます。

露出が終わりシャッターが閉じたら、液晶モニターでその星を確認します。 液晶モニターに星が写っている事が確認できたら、 液晶モニターの表示倍率を上げて、星の部分を拡大して星像を確認しましょう。

もちろん一枚撮っただけですと、ピントが合っているのかどうかよくわかりません。 次にピントリング(望遠鏡ならドロチューブ)を少しだけ移動させて、 同じ星を同じISO感度とシャッター速度で撮影してみます。 そして再び液晶モニターで拡大表示させてみましょう。

デジカメのモニタ

先ほどの星の大きさと比べていかがでしょうか。 星が小さくなっていれば、ピントリングの移動方向は正しくピント位置に近づいています。 大きくなっていれば、残念ながら逆にピントリングを移動させていたようです。 星が小さくなる方向にピントリングを回転させてみましょう。

これを繰り返して、星がもうこれ以上小さくならない位置を捜していきます。 最初は手間に感じますが、確実で正確なピント合わせの方法です。 慣れれば数分で合わせられるでしょう。 下の回折光と組み合わせると、より手軽にピントを合わせられます。

デジタルカメラにライブビューモードが搭載されていなかった頃は、 私もこのように何度も試写してピント合わせを行っていました。 現在はライブビューモードでピントを合わせていますが、 最後に上記と同じように試写して、正確にピントが合っているかを確認するようにしています。

スパイダーの回折光を使えばわかりやすい

ニュートン式反射望遠鏡で星を写すと、スパイダーによる光の回折現象のため、 明るい星の周囲に下の写真のような放射状に伸びた光条が写ります。 この光条は、ピントが合っていない時には二重に呆けて写りますので、 ピント位置を判断するよい目安になります。

星の回折光

反射望遠鏡でなくても、光が回折するようにしさえすればよいので、 屈折望遠鏡や望遠レンズのフードの前にテープやひもをクロスさせてもOKです。 ピント合わせが随分と楽になりますから、是非やってみてください。 ただし回折光は、ファンダーで見てもほとんど見えません。 上の撮って確かめる方法や、ライブビューモードを使って、ピントを追い込んでいきましょう。

ライブビュー機能は大変便利

液晶モニターフードProルーペ 天体写真用デジカメの選び方にも記載していますが、 最近のデジタル一眼レフカメラのほとんどの機種には、ライブビュー機能が標準で搭載されています。 天体写真撮影に人気のキャノンEOS60DやEOSKissX7、ニコンD810にもこの機能がついています。

ライブビュー機能を使用すると、撮像素子に写っている画像をリアルタイムに液晶モニターに映し出すことができます。 更に、その状態から画像を拡大することもできますから、天体写真のピント合わせにはうってつけです。

これからデジタル一眼レフカメラを天体写真用に購入されるご予定でしたら、 このライブビュー機能がついたカメラが便利です。 以下にライブビュー機能を使ったピント合わせの方法をご紹介しましょう。

@2等星前後の明るさの星をファインダーの視野中央付近に導入する
Aライブビューモードを立ち上げる
B液晶モニターで星を確認する。星が見えづらい場合は、ISO感度を上げる
C星の部分を拡大して、星像を確認する
D液晶モニターの星像を見ながらピントリングを回して、星像が最も小さく、明るく見えるようにする。

なお、液晶画面を確認する時に、液晶モニターの像を拡大して確認するためのルーペがあると便利です。 右上は私が使っているフジカラーの液晶モニターフードです。 これには3倍のレンズが付けられていて、液晶モニターの様子を詳細に見ることができます。

残念ながら、この製品の製造は終了してしまいましたが、 他にも「UN モニタリングPro液晶画面確認用ルーペ」 のような液晶モニターを拡大するルーペが販売されています。 こうしたフード兼ルーペは、明るい場所でモニターが見づらい時にも活躍してくれますので、 天体写真撮影用としてだけでなく、風景などの撮影時にも重宝するはずです。

まずは自宅でピント合わせの練習

マニュアルでのピント合わせは、最初は上手くいかず、時間ばかりが経っていくものです。 特に郊外に望遠鏡やデジカメを持ち出して撮影している時は、貴重な撮影時間が過ぎ去っていくと焦ってしいます。

それを避けるため、時間があるときに、ご自宅で「この日はピント合わせの確認の日にしよう」と決めて、 ピント合わせの練習をしてみてはいかがでしょう。

パソコンが使える環境なら、パソコンとカメラをUSBケーブルで結び、 画像をダウンロードしながらピントを合わせてみるとよいでしょう。 こうすれば、より大きな画面で撮影画像を確認することが出来ます。 液晶モニターを使ったライブビューよりも、より正確なフォーカスを得られると思います。

ピントが上手く合ったら、その位置をピントリングもしくはドロチューブにメモしておきましょう。 鉛筆でもペンでもよいですので、わかりやすいように線を引いておきます。 そうしておけば、次回からはその位置に合わせば、ほぼよいピント位置で撮ることが出来るようになります。

微調整できるピントノブに変える

微動ピントノブ 天体望遠鏡のドロチューブでピントを合わせる時には、ピントノブを少しずつ動かさなければなりません。

天体観望する時のように、大きく動かすときには便利なピントノブですが、 微妙な動作はしづらい装置です。 特に最後の追い込みの時には、回したか回していないかぐらいの移動量になります。 こうした微妙な調整を、望遠鏡を購入したときに付属する普通のピントノブで行うのは、至難の業と言えます。

そこで、こうした微調整用にクラッチ機能が付いた微動ピントノブが、オプション機器として販売されています。 減速微動装置が付いたピントノブを使えば、通常の10分の1から7分の1の速度でドロチューブを動かせるので、 より正確なピント合わせを楽にできるようになります。

ちなみに、天体望遠鏡メーカーの高橋製作所からは、MEF-3とMEF-4という2つのタイプが販売されています。 天体望遠鏡の種類によって、使用できる微動ピントノブの種類が異なりますので、 望遠鏡販売店に確認の上、購入するようにしましょう。

ピントゲージを取り付ける

ピントゲージ 天体望遠鏡のドロチューブには、カメラレンズのような目盛は打たれていません。 そのため、どちらの方向に、どれだけドロチューブを繰り出したかを客観的に知る手立てがありません。

それでは、ピント合わせ時にどちらに回せばいいか迷ってしまいますので、 ドロチューブに取り付けるピントゲージという製品が、天文ショップなどで販売されています。

右上の写真がその一例です。 市販のダイヤルゲージを加工して、接眼部に取り付けられるようにした製品です。 ご自宅にアルミ板などを加工できる装置があれば、自作することも可能かもしれません。

ピントゲージを取り付けると、ドロチューブを動かした量や方向を客観的に把握できるので、 最適なピント位置を探しやすくなります。 天体望遠鏡を使って、星雲や銀河を撮影するなら、正確なピント合わせのために是非導入したいツールです。

電動フォーカサーを取り付ける

電動フォーカサー 天体望遠鏡の接眼部に電動フォーカサーを取り付けると、 パソコンやリモコンからドロチューブを動かし、 ピント合わせができるようになります。

電動フォーカサーにはステッピングモーターが使用されているので、 動作ピッチが細かく、手でピントノブを回すよりも細かいピッチで、最適なピント位置を探すことができます。 また、ピントノブに直接触れる必要がないので、ブレの発生が少ないのも利点です。

撮影用のデジカメと電動フォーカサーをパソコンに繋ぎ、 電動フォーカスに対応した天体撮影用ソフトから制御すれば、 オートフォーカスも実現可能です。

なお、電動フォーカサーには、天体望遠鏡のドロチューブ機構を利用する、後付けモータータイプと、 接眼部自体を交換する、フランジ型があります。 フランジ型の電動フォーカサーは、望遠鏡のドロチューブ機構の工作精度に動きが左右されないため、 動作時のガタやバックラッシュ(遊び)が少なく、外観もスッキリしていますが、非常に高価です。

一方、後付け型は、ドロチューブのピントノブ部分にモーターを取り付けるため、 モーターが横に出っ張ります(右上写真参照)。 また、望遠鏡のドロチューブ機構に動きが左右されるので、 工作精度の悪い望遠鏡はガタや大きなバックラッシュが発生しますが、 フランジ型に比べて安価なので、現在は後付け電動フォーカサーが主流になっています。

バーティノフマスクを使う

バーティノフマスク バーティノフマスクは、ロシアの天体写真ファンPavel Bahtinov氏によって考案されたピント支援ツールです。

バーティノフマスクには、右のようなスリットが多数空いていて、 星の光がこのスリットを通ったときにできる回折光を見て、 ピントの良否を判断するというピント支援ツールです。 反射望遠鏡のスパイダーによる回折を、もっと精度良くしたものと考えればよいでしょう。

バーティノフマスクを使うためには、まずこの回折スリットを作成しなければなりません。 このマスクは望遠鏡ショップでも市販されていますが、自分で作成することもできます。 最近では、このスリットのパターン作成を自動でやってくれるサイトがあります。 例えばこちらのサイトでは、 望遠鏡の焦点距離(Focal length)、口径(Aperture)、Edge thickness(マスクの外側の幅) を入力すれば、バーティノフマスクの画像を生成してくれます。

この画像をプリントし、アクリル板などに加工すれば、ピント支援ツールとして使うことができます。 ※生成されたファイルはsvg形式です。変換サイトを使えばpdfなどの形式に変換することができます。

なお、バーティノフマスクは、天体望遠鏡や焦点距離150ミリ以上の望遠レンズを使った天体撮影時によく使用しています。 標準レンズや広角レンズでは回折光がわかりづらいので、 その場合は、液晶モニターに表示されたライブビュー画像をルーペで拡大し、ピント位置を確認しています。

バーティノフマスクの使用方法

バーティノフマスクの回折光 バーティノフマスクの使用方法は簡単です。 まず、天体望遠鏡やカメラレンズの視野内に、天頂付近で輝く2等星前後の明るい星を導入します。

次に、このバーティノフマスクを天体望遠鏡、もしくはカメラレンズのレンズの前に置きます。 この時、バーティノフマスクが落下しないように、テープ等で鏡筒に固定しておきましょう。

準備が整ったら、デジタル一眼レフカメラのISO感度を上げて、ライブビューを起動します。 液晶モニターを拡大すると、明るい星の周りにバーティノフマスクの影響で光条が発生していることが確認できるでしょう。

この光条が右の中央の写真のように、全体的にバランスよく伸びていれば、ピントが合っている事になります。 なお、デジカメの感度が低かったり、光学系のF値が暗い場合には、星が暗くて確認しづらいことがあります。 その場合には、試写して光条を確認しましょう。

ピントがずれていると、右の上下の写真のように、中央の光条の位置がずれているのがわかるはずです。 ピントリング、もしくは望遠鏡のドロチューブを動かすと、光条の位置が動くのが確認できると思います。 この光条が右写真中央のように均等になるように調整して、ピントを合わせます。
※バーティノフマスクのスリットの形状によって、発生する光条の数や形状が異なります。

バーティノフマスクは、客観的にピントの位置を判断できるので大変便利なツールです。 ただマスクのスリットの形状によっては、光学系の求められるピント精度に達しないことがあるので、 念を入れるなら、最後はスリットを外し、試写してピント位置を確認するようにしましょう。

ピントの位置は気温で変わります

正確なピントの位置は、気温の変化と共に少しずつ変ってきます。 これはレンズやミラーなどが気温によって収縮膨張し、焦点を結ぶ位置が変わるためです。 無視できる量かというとそうでもなく、望遠鏡やレンズによっては、 フォーカス位置が数十μmも変わるものもあります。

そのため、望遠鏡を室外に出してすぐと時間が経って外気に馴染んだときでは、 ピントの位置が変わっていることがあります。 天体写真を撮るときには、このことを覚えておいてください。

一晩中同じピント位置で撮影していると、「最初の方は綺麗な点像だったのに、途中からはボケボケ・・・」 ということにもなりかねません。 撮影を始めても、途中で一度はピントの見直しを行う癖をつけるようにしましょう。

まとめ

一般的な被写体の撮影では、オートフォーカスが当たり前のカメラ業界ですが、 星空撮影の世界では、マニュアルフォーカスがまだ主流です。

ピント合わせは、少し面倒で地味な作業ですが、天体写真のクオリティに直結する重要な作業です。 時間をかけてゆっくりとピント合わせを行いましょう。

はじめは誰でもピントの良否がわからず、ピンボケ写真を量産してしまうものです。 しかし、何度も繰り返しているうちに、いつの間にか上達し、ピント合わせが苦になくなってくると思います。

また、マニュアルフォーカスに精通しておくと、 星空だけでなく、他の写真分野でもその技術を活用することができます。 実際、私は風景写真の撮影でも、マニュアルで合わせることがほとんどです。 是非、ピント合わせを習得して、シャープな星像で、夜空に広がる星空の撮影を楽しんでください。

バーティノフマスク
バーティノフマスク 対応径65-92mm

市場には、様々な素材で出来たバーティノフマスクが市販されています。 amazonで販売されているこのバーティノフマスクは、 アルミ製になっていて、樹脂製やプラスチック製と比べて耐久性が高くなっているのが特徴です。

左の写真のように、このバーティノフマスクには、フード固定用のネジが設けられていますので、 初めての方でも使いやすいと思います。 なお、バーティノフマスクは、お使いの望遠鏡のフードの大きさに合わせたものを用意しておく必要があります。 この商品の他にも、様々な大きさの製品が販売されていますので、必要な大きさを調べた上で購入しましょう。

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