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銀塩カメラを使った星の撮り方

デジタルカメラ全盛の現代ですが、銀塩フィルムの作品には、デジタルにはない独特の雰囲気があります。 このページでは、銀塩フィルムカメラを使用した星空の撮り方を紹介しています。

銀塩フィルムカメラの有利な点

銀塩カメラは、銀塩フィルムを使って撮るカメラのことです。 デジタルカメラが登場するまでは、カメラと言えば銀塩カメラを指していました。

デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラが一般的になるにつれ、 銀塩フィルムの銘柄も減りましたが、銀塩カメラのアナログ感も捨てがたいものです。

星空の撮影では、デジタルカメラに比べ、銀塩フィルムカメラの方が有利な点があります。 星は暗いため、長時間露出する必要がありますが、デジタルカメラでシャッターを開け続けると、ノイズが徐々に増えてきます。 こうした現象は銀塩フィルムには生じませんから、何時間露出しても滑らかな画像が得られます。

銀塩フィルムカメラの不利な点

デジタルに比べて銀塩フィルムカメラが不利な点もあります。 一番大きいのは、銀塩カメラで撮影すると、フィルムの現像が終了しないと仕上がりがわからないところでしょう。

ピント合わせや露出設定など、全ての設定がマニュアルの星空撮影の世界では、撮影者の勘が全てです。 デジタルカメラなら、とりあえず一枚撮ってから、その撮影データーをその場でフィードバックすることも可能ですが、銀塩カメラではそうはいきません。

長時間露光しても、デジカメのようなノイズが発生しないのは長所ですが、 銀塩フィルムで長時間露光すると、露出した時間と写りが伴わない「相反則不軌」という現象が発生します。

通常は、露出時間を長くすればするほど暗い部分が写るわけですが、 露出時間が極端に長いと、この法則が崩れてしまうのです。 星空の撮影では、数十分露出が当たり前なので、銀塩フィルムを使った星空の撮影は、 フィルムの相反則不軌との戦いとも言えます。

ちなみに、フィルムを強烈に冷やすと相反則不軌がなくなり、露光しただけよく写るようになります。 銀塩カメラ全盛の頃は、天体撮影用に、カメラ内にドライアイスを入れた、冷却カメラという特殊な天体撮影カメラも作られました。

銀塩カメラを使った星の撮影

前置きはこのくらいにして、銀塩フィルムカメラを使って星を撮影してみましょう。 まずは固定撮影から始めるのがよいでしょう。 固定撮影は、三脚にカメラを取り付けて星空を撮影する方法です。

銀塩カメラでもデジタルカメラでも、星撮影で重要なのはピント合わせです。 星は暗いため、オートフォーカス機能が働きません。 レンズのピントリングを回して、マニュアルモードでフォーカスを合わせる必要があります。

次に難しいのが露出時間の設定です。 銀塩カメラでは、一枚撮ってから確認することができませんから、撮影者の経験と勘だけが頼りです。 こればかりは何枚も撮影して、腕を磨いていくしかありませんが、 参考までに、私の露出時間決定の方法を後ほどご紹介します。

最後に大切なのが、フィルム銘柄の選択です。 銀塩フィルムの種類によって、波長ごとの感度特性が違ってくるため、星空を撮影する際には考えておきたいポイントとなります。 最近はデジタルカメラが人気なので、銀塩フィルムの種類はだんだんと減っています。残念ですね。

ピント合わせの方法

銀塩カメラのピント合わせを行う前に、まず星空撮影に使用する予定のレンズを確認しましょう。

お使いになるレンズは、昔ながらのピントリングが無限遠できっちりと止まるタイプでしょうか。 それとも、最新ズームレンズのように、ピントリングが無限遠を行きすぎて止まるタイプですか。 撮る前に、使用予定のレンズのピントリングを確認してみてください。

昔ながらのピントリングが無限遠で止まるタイプであれば、 無限遠に合わせて撮影すれば、まず間違いなく、ピントが合った状態で撮影できます。

一方、ピントリングが行きすぎるタイプの場合、ピントリングが止まった位置で撮影すると、 たいていの場合、ピンボケ写真に仕上がってしまいます。 このようなレンズには、特殊低分散レンズ(EDレンズ等)が用いられているので、 気温の変化でレンズのピント位置が大きく変わってしまいます。 温度のズレを補正するため、レンズのピントリングは行き過ぎる構造になっています。

ピントリングが無限遠で止らないレンズを星空撮影に使う場合には、 事前に正確なピント位置を知る必要があります。

すりガラスを使ったピント合わせ

星にピントを合わせると言っても、カメラのファインダー越しだと、星は暗く小さいためよくわかりません。 ファインダー像を拡大するマグニファイアーを使うのも一つの方法ですが、 視野が暗くなるので、よっぽど明るい星しかピント合わせに使えないはずです。

星空撮影の際、私は、すりガラスを使って、星にピント合わせを行っています。

すりガラスを使ったピント合わせは、カメラボディにレンズを付けた状態で行います。 フィルムは、未換装状態です。具体的な方法は以下の通りです。

1.カメラボディにレンズを付けた状態でカメラの裏蓋を開ける
2.フィルムが走るレールに、用意しておいたすりガラスを当てる。
3.すりガラスを当てると、レンズが作った像がガラスに浮かび上がる。
4.その像をルーペで拡大する
5.像が一番シャープになるところを、ピントリングを回して探す
6.ピント位置が判ったら、ピントリングをテープで固定する
7.すりガラスを外してフィルムを入れて、裏蓋を閉める
8.撮影する

すりガラスを使ったピント合わせは、上記のような流れになります。

いきなり星でピント合わせをするのは難しいので、夜景のような遠くの点光源を用いて、 おおよそのピント位置を確認しておくと撮影現場でも焦らないでしょう。 練習の時にピントリングにマーク等をしておけば、撮影地でこの位置にあわせば、ほぼジャスピンで星空を撮影できるはずです。 拡大に使うルーペは、ポジフィルムのチェック用のルーペが使い易いと思います。

ナイフエッジ法

すりガラス法の他に、ナイフの刃先を使った「ナイフエッジ法」と呼ばれるピント合わせの方法もあります。

ナイフエッジ法は、ある程度の熟練を要するので、はじめての方だと難しく感じられるかもしれません。 カメラレンズを使う場合は、すりガラスでも十分高い精度を得られますから、そちらがお勧めです。

ナイフエッジ法でピントを合わせる場合は、夜景ではなく、実際の星を使ってピント合わせを行ないます。 方法は単純で、カメラの裏蓋を開けてから、フィルムのガイドレールにナイフを当てます。 そのナイフを動かして、レンズが作り出した光束を切っていきます。

その時、もしピントがしっかりと合っていれば、光束は「スパッ」と一気に切れます。 星の光が一点に収束しているからです。 ピントがずれていると、光束は徐々に切れていきます。光束に幅があるからです。 この一気に切れる点を探して、ピントリングを回していくわけです。

ナイフエッジ法によるピント合わせは、天体望遠鏡を使った直焦点撮影向きです。 星がいつもカメラの中央に位置していなければなりませんので、赤道儀も必須です。 通常は上のすりガラスを使ったピント合わせで十分でしょう。

露出時間の設定

露出時間の設定は、銀塩カメラで星を写すときに頭を悩ます点の一つです。

何枚か段階露出できればベストですが、星空の場合は1枚に20分以上の露光時間をかけるため、 チャンスは一度きりというのも多いものです。 その場所で見た星空に出会えるのは一度きり、そういう緊張感が銀塩カメラにはあります。

星空をカメラレンズで写す場合、星空の背景の暗さが一番の目安になります。 目安と言っても勘のようなものですので、人それぞれ考え方が違います。 参考までに私の露出時間の目安をご紹介します。

私の露出時間の基準は、銀塩フィルムの感度ISO400、レンズの絞りF4、露出時間30分です。

この基準となる露光は、日本の中でも恵まれた星空環境がある場所で適用します。 具体的には紀伊半島の山間部や、長野の高原などです。 空を見渡してみて、天の川が白くはっきりと見える場所です。

海外の撮影地や北海道、離島など、光害が全く感じられない理想的な星空環境では、基準値の倍にします。 ISO400フィルムを使った場合、絞りF4で60分です。 こうした場所では、手元も見えないほど暗いので、明らかに本州の撮影地とは違うことがわかります。

都市近郊の撮影地など、背景が少し明るく感じられる場合には、露出時間を20分に減らします。 必要以上に長い時間露光していると、背景が被って星がかき消されるためです。 こうした撮影場所では、星空が少しグリーンかかって見えます。

また、透明度が悪い、細い月がある、地面に雪があるなどの場合も露出時間を短くします。 夜景と共に撮影する場合には、夜景の明るさをよく考えて構図を設定する必要があります。 星空が夜景に負けてしまわないよう、夜景の部分を少なくしたり、ハーフNDフィルターを用いて夜景部分を減光したりします。

最終的には、撮影者の経験がものを言う世界です。 何度も同じ場所で撮影していると、自然と「今日はもう少し露出時間をかけられそうだな」ということがわかるようになります。

銀塩フィルム銘柄の選択

フィルムメーカーから、様々な銘柄の銀塩フィルムが発売されていますが、それぞれ分光感度特性が違うので、 星空の写り方が異なります。 銀塩カメラで星を写すときには、自分の仕上がりイメージ合ったフィルムを使うことが大切です。

銀塩フィルムの銘柄によってまず大きく異なるのは、背景の被り方です。 日本の夜空は光害の影響があるため、使用するフィルムによっては、背景がグリーンに被りやすくなります。 いわゆる、長時間露光するとカラーバランスが崩れやすいフィルムです。 こうしたフィルムは、星空撮影には向きません。 何か目的がある以外は避けておきたい銘柄です。

次にフィルムによって、赤く輝く星雲の写り具合が異なります。 星雲はHα光という特定の波長で輝いているのですが、星雲の写り具合はフィルムの銘柄によって大きく異なります。 ある銀塩フィルムでは明るく写ったものが、他のフィルムでは全く写らないことがあります。 こうした星雲を明るく撮影するのが目的なら、Hα光の感度は注意しておきましょう。

フィルムにはISO感度の違いもあります。ISO感度が高いと短い時間で撮影できて有利ですが、粒状性が悪くなります。 逆にISO感度が低いと粒状性が良く滑らかですが、撮影に時間がかかります。 写真表現によって、使用するフィルムのISO感度も考える必要があります。

また、ISO感度の低いフィルムでも、増感によって感度を上げることができます。 増感現像すると若干硬い上がりになりますが、これが写真の目的に合う場合もあり、私はプラス1増感をよく使用していました。 星空の写真撮影に慣れてきたら、フィルムの増感にもチャレンジしてみましょう。

ポジフィルムとネガフィルム

銀塩フィルムには、ポジフィルム(リバーサルフィルム)とネガフィルムがあります。

ネガフィルムは、たいていのカメラ店で販売されているので手に入れやすいですが、 星空の銀塩写真撮影にこだわるならポジフィルムをお勧めします。 ポジフィルムの方が、後で自分でコントラスト強調などの画像処理がしやすいためです。

星は大変淡いため、高感度の銀塩フィルムの場合も、撮影後に画像処理した方が綺麗に仕上がります。 画像処理する場合は、フィルムのスキャニングが必要になりますが、ポジフィルムの方がスキャンしやすく、 カラーバランスの良好なデーターを手に入れやすくなります。

一般に量販店で市販されているクラスのスキャナでは、ネガを綺麗にスキャンのは極めて難しいものです。 こうした点からもポジフィルムで撮影して、デジタルデーターに変換することをお勧めします。 もちろん画像処理行程を通さずに、ポジからのダイレクトプリントで仕上げることも可能です。

ブローニーフィルムやシノゴを使う

銀塩フィルムを星空撮影に使う魅力の一つに、ラージフォーマットの銀塩フィルムを使用できることがあります。

ブローニーフィルムやシノゴというサイズのフィルムは、フィルムの面積が35ミリ判に比べてずっと大きいため、 レンズが結んだデーターを豊かに蓄えられます。 35ミリ判の撮影に慣れてきたら、こうした大きなフォーマットで星空を撮影してみると面白いでしょう。

大判カメラになると取り扱いが大変になりますが、 6x7や645といった中判カメラなら、35ミリ判と同じような感覚で取り扱うことができます。 特にペンタックス67は、星空の撮影に向いたレンズが揃っているので、星景写真や天体写真ファンに人気があります。 中古カメラ市場で掘り出し物を探してみてはいかがでしょうか。

ところで、中判や大判カメラで星を撮影するときには、35ミリ判では気にならなかった、 フィルムの浮きに留意する必要があります。

ブローニーやシノゴのフィルムは大きいので、フィルムがカメラのフィルムボックス内で浮いてしまうことがあります。 一般撮影なら気にならない程度のフィルムの浮きでも、星は点光源なので、ピンボケが目立ってしまいます。

フィルムの浮きの対策として、裏蓋に吸引加工を施して防止することもあります。 400ミリ以上の望遠レンズで撮影するときには、吸引加工を施しておいた方が良いでしょう。 広角レンズなら、それほど神経質になる必要はないと思います。

アナログの豊かな世界へ

撮影した後、現像後のフィルムの仕上がりを確認するのは、いくつになってもドキドキします。 ライトボックスの光でフィルムを照らすと、撮影した時の星空が光の中に浮かびます。

フィルムにルーペをあてると細かい星々が見えてきて、ちょっとした星空遊泳の気分です。 大画面液晶ディスプレイでデジタルデーターを鑑賞するのも楽しいですが、手に取れるフィルムを見る瞬間は、 かけがえのないものです。 デジタルに疲れたら、あなたもアナログの世界を楽しんでみませんか。

2017年5月 追記
2019年6月 追記・編集

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