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フラットフレームの撮影方法

天体写真を撮るときに避けられないのが、周辺減光の問題です。 周辺減光は、開放絞り付近で撮影する天体写真の世界では、どうしても生じてしまう現象で、 銀塩フィルム時代から話題によく上っていました。

この周辺減光の補正方法にはいくつかありますが、その中でも有効な手段の一つとしてよく使われているのが、 フラットフレームを用いたフラット補正です。

どちらかと言えば画像処理の話題なのですが、ここではフラットフレームの撮影方法について、 天体撮影が初めての方でもわかりやすいように説明してみました。


周辺減光とは

周辺減光の様子 周辺減光とは読んで字のごとく、写真の周辺四隅が中央部分に比べて暗くなる現象です。 右の作例写真をご覧いただくと、周辺減光の様子がご理解いただけると思います。

周辺減光の発生量は、使用する撮影光学系によって大きく異なります。 ほとんど周辺減光が発生しないカメラレンズや天体望遠鏡もある一方、周辺減光が大変大きな光学系もあります。 また、撮影するデジタルカメラの撮像素子の大きさによっても、周辺減光の出方は変わってきます。

カメラレンズを用いる場合は、絞りを絞る(F値を暗くする)と周辺減光は減少します。 しかし、天体写真の世界では、より明るい光学系を求める傾向があるため、 周辺減光はどうしても出てしまうのが実状です。 なお、撮影地の夜空が十分に暗ければ、撮った画像の周辺減光は目立ちにくくなります。


フラットフレームとは

フラットフレーム 天体写真に慣れてくると、フラットフレームとか、フラット補正という言葉を耳にすると思います。 言葉の意味をなんとなくはイメージできますが、初めてだとその意味がわかりづらいものです。

フラットフレームという正確な言葉の定義が存在するわけではありませんが、 フラット補正に使う画像のことを一般的に「フラットフレーム」と呼んでいます。 フラット補正のために撮影した画像をフラットフレームと呼ぶ、と覚えておけば間違いないでしょう。

右上は、そのフラットフレームの例です。画像には何も写っておらず、周辺減光の様子だけが記録されています。 こうした補正用の画像を使って、先ほどの周辺減光した画像を補正します。 このフラットフレームを使った、周辺減光の補正処理工程を「フラット補正」と呼んでいます。

なお、撮影画像は「ライトフレーム」と呼ばれることもあります。 フラットフレームと共に、天文ファンの間でよく交わされる用語ですので、 覚えておくと便利だと思います。


フラット補正を行うと

フラットフレームを使った様子 フラットフレームを使ってフラット補正を行うと、周辺減光が補正されて、 周辺まで均一な明るさを保った画像になります。 また、CCD表面にゴミなどが付着し、円状に暗くなっている部分も、ある程度の補正が可能です。

右の流れ画像を見ると、フラット補正の効果がイメージしやすいでしょう。 フラット補正前の撮影画像は、周辺減光も酷くて、黒く丸い円のようなものも中央右寄りに写っています。 この黒い円は、デジカメのCCD表面に付いたゴミによって引き起こされた影です。

2番目のフラットフレームにも、この黒い丸い円が写っています。 この画像からは、この撮影光学系の周辺減光の様子もよくわかりますね。

そしてこのフラットフレームを最初の撮影画像に適用すると、一番下の画像のように綺麗になります。 周辺減光も補正された上に、黒い点も無くなっています。 はじめて見ると、魔法のような技術に見えるかもしれません。

もちろんフラット補正も万能ではありません。 撮像素子の表面にゴミがたくさん付着していたりすると、補正しきれません。 ですから、デジカメや撮影光学系はなるべく綺麗に保ちましょう。 ちなみにこの撮影画像を最後まで処理するとこんな写真に仕上がります。


フラットフレーム撮影の前に

撮影機材一式 ここまで読んでいただくと、フラット補正は周辺減光を補正する魔法のような処理に思えるかもしれません。

また、「よ〜し!こんなフラットフレームを撮影すれば、フラット補正ができて周辺減光のない画像になるんだな! パパッと撮れそうだし簡単だ!」と思われるかもしれません。

でもよく考えてみれば、何も写っていない画像を撮るのは案外と難しいものです。 ダークフレーム(長時間ノイズだけを写した画像)でしたら、レンズやデジカメにフタをして撮影しておしまいですが、 フラットフレームの場合には、フタをして撮影するわけにはいきません。 フラットフレーム撮影は奥が深く、案外と難しいのです。

フラットフレームの撮影には厄介な点があります。 撮影時と全く同じ光学系を使って、フラットフレームを撮らなければならないのです。 周辺減光の出方は、レンズやカメラによってそれぞれ異なりますから、 それぞれの光学系で撮影しないといけません。 デジカメと光学系の組み合わせを考えると、結構大変な作業ですよね。

機材の組み立ての手間を考慮に入れると、できれば本撮影終了後に、 ついでにフラットフレームを撮っておくのがベターだと思います。 フラットフレーム撮影のためだけに、機材をセッティングするのは大変ですからね。 『撮影が上手くいって、すべての撮影が終わったらフラットも撮る!』。 初めはこのような方法で、フラットフレームの撮影をはじめてみてはいかがでしょうか。

なお、フラットフレームは、一度撮ればある程度使い回しすることも可能です。 その光学系とカメラで撮った画像には、前回撮影したフラットフレームを用いて、周辺減光の補正ができてしまうわけです。 そういう意味では、一度頑張って、綺麗なフラットフレームを撮っておいてもよいかもしれませんね。


フラットフレームの撮影方法

フラットフレーム撮影中 フラットフレームの撮影には様々な方法があります。 私が知っているだけでも5、6種類はあるでしょう。 フラットフレームの撮影・作成方法は、天体写真ファンの間でよく議論に上る話題ですが、 撮影者が使いやすく、満足できる方法が一番だと思います。

まずは、私のフラット撮影方法をご紹介しましょう。 私は郊外で星空を撮影することがほとんどなので、フラットフレームの撮影方法には、 ツールが必要ないシンプル方法を用いています。 具体的には、薄明が始まった頃の薄暗い空を利用して、フラットフレームを撮影するという方法です。

まず、天体の撮影が終了してしばらくすると、天文薄明が始まります。 こうなったら、天体望遠鏡のフードにトレーシングペーパーを貼り付けます。 この時、なるべくトレーシングペーパーが平面になるように取り付けるのですが、 それほど神経質になる必要はありません。

次に天体望遠鏡を空に向けます。 どこでもよいのですが、低空の明るさの差の影響が出にくい、中天付近から始めるとよいでしょう。 そしてシャッターを切ります。以上です。

・・・え、終わり?というほど簡単ですが、私はこうしていつもフラットフレームを撮影しています。 ただ注意すべき点もあります。

まずは、ピントやカメラの構図(位置)を変えないこと。 次に、本撮影と同じ撮影モード(RAWモードやノイズリダクションの設定など)で撮影することです。

重要なのは、カメラの露出時間の設定です。 露出時間は、状況によって変わるため一概には言えませんが、 ヒストグラムを見ながら、明るい部分が飽和したり、画像があまりにも暗くなりすぎないように注意しながら最適な時間を設定します。 ヒストグラムの山が、中央よりも若干左側(左端から5分の2ぐらいの位置)に来ているかを、 ある程度の目安にしています。

※天文薄明中は、空のバックグランドがどんどん明るくなるので、 望遠鏡の高さを変えながら、手早く撮影することがポイントです。

撮影した画像を確認するとと、周辺が暗く、真ん中がほんのり明るく写っていると思います。 こうなれば成功です。1枚だけではノイズが目立ちますから、数多くの枚数を撮っておきましょう。 時間に余裕があるときは、露出時間も変えて撮っておけばベストでしょう。

※露光時間が極端に短すぎるとフラット補正に失敗することがあるので、 少なくとも数秒の露光はかけるようにしています。


その他のフラット撮影方法

他のフラットフレームの撮影方法を、 撮影地でよくご一緒する西明石同好会の皆さんが行われている方法を参考にしつつ、下記に簡単にご紹介しましょう。

どれも一度試してみると面白いと思います。 私もいくつかやってみましたが、手軽さと成功率という点では、現在の天文薄明を使って撮る方法が一番でしょうか。

ELシートを用いる方法

ELシートという光るシートを用いてフラット撮影を行う方法です。 この方法のよいところは、どこでもいつでもフラットフレームを撮影をできることです。 ただし電源とELシートが必要です。 また、ELシートは案外と明るいですので、減光する手段も考える必要があります。 車の窓に貼るカーフィルムを減光に使うと便利ですね。

都会の夜空を使う方法

都会の夜空は明るいですから、郊外の薄明中の空のようなものです。 その明るい夜空を利用してフラット撮影する方法です。 具体的な方法は、薄明の空を用いるのと同じで、望遠鏡の先にトレーシングペーパーを取り付けて撮影します。 ただし、明るい星や月が入らないように注意しましょう。

トレーシングペーパーを取り付けないで、そのまま夜空を撮影する方法もあります。 赤道儀の追尾を停止して撮影すると、星が線状にたくさん写りますが、気にせず何枚も撮影します。 それからステライメージに搭載されているシグマクリップコンポジットを使って、 星が写っていないコンポジット画像を得る方法です。

曇り空で撮る方法

どんより曇り空では星空は見えません。そういう時には、フラット撮影しておこうと考え出された手法です。 どちらかというと、自宅観測所などをお持ちで、いつでも撮影できる方向けの方法です。 曇り空なのに、そのためだけに機材一式を出してセッティングするのは大変ですものね。

撮影前に撮る方法

撮影対象が上ってくる前に、本撮影と同じISO感度、同じ露光時間でフラットフレームを撮影する方法です。 撮影時は、鏡筒の先にトレーシングペーパーを貼り付け、赤道儀を止めて撮影します。 精度が高いフラットフレームを得られやすいですが、撮影時間がかかります。

液晶ディスプレイを使う方法

ELシートの代わりに液晶ディプレイを用いてしまおうという方法です。 最近大型のディスプレイが普及していますから、時代の波に乗った方法かもしれません。 こちらもELシート同様、減光する方法が重要です。 また、あまり大きな機材には使いづらい方法でしょう。

ライトボックスを使う方法

銀塩ポジフィルムを鑑賞するときに使う、フィルムライトボックスを使う方法です。 ライトボックスの光源は、演色性の高いものがほとんどですから、なかなか有効な方法だと思います。 しかし、ライトボックスの大きさは限られますので、液晶ディスプレイ同様、あまり大きな機材には不向きです。

ドームの壁を使う方法

ドームの壁に白い紙を貼って、それを撮影することでフラットフレームを得る方法です。 公共天文台などではよく使われるフラットフレームの撮影方法ですが、一般的ではありません。 まずドームがないとどうしようもありません。

撮影画像を使う方法

これはフラットフレーム撮影ではありませんが、撮影画像をぼかしてしまって、 フラット補正に使ってしまおうという方法です。 星や星雲があまり写っていない銀河の写真などでは有効ですが、それ以外には使いづらい方法です。

他にもいろいろな方法が考案されています。 光を分散させるトレーシングペーパーの代わりにアクリル板を使ったり、 フラットフレームを得るために発泡スチロールで積分球を作った方もいらっしゃいました。 いろいろ試されて、自分なりのベストの方法を編み出してください。 そして、優れた方法がみつかったら、是非、私にも教えていただければ幸いです。


デジタル一眼レフカメラのフラット撮影方法

ベイヤーマージ画面 デジタル一眼レフカメラの撮像素子にはカラーCCDが用いられているため、 モノクロ冷却CCDカメラのように、フィルター毎にフラットフレームを撮影することができません。 そのため、デジタル一眼レフカメラの画像の方が、フラット補正が難しいという方もいらっしゃいます。

デジカメのフラットフレームを撮る際には、デジカメの液晶画面にヒストグラムを表示させて、 R、G、Bの各ヒストグラムの位置が、ほぼ同じ場所に来るようにして撮影するのが理想です。 つまりニュートラルグレーの光源を撮影したような状態にするわけです。

しかし、実際にはそうした理想的な光源を得るのは難しく、 薄明の空を撮影すると、B画像が、RやG画像に比べて明るく写ることに気付かれると思います。 以前は望遠鏡の先に色温度補正用のシートを貼って対処していたこともありますが、手間がかかります。 そこで、フラット画像をR、G、Bに分けて、3回撮影する方法を取るようにしています。

R、G、Bのヒストグラムが、ほぼ同じ位置にくるように露出時間を変更して3回撮影し、 撮影後にRAP2(画像処理ソフト)のべーヤーマージ機能やRStackerを使って、フラットフレームを作成しています。 なお、このRGB毎に撮影する際には、デジカメのホワイトバランスは、ライトフレームと同じモードに合わせておいた方がよいでしょう。

なお、デジカメの露光時間が短すぎると、フラット補正に失敗することがあるので、 少なくとも数秒はかけた方がよいでしょう。 逆に言うと、それぐらいの露出がかけられる暗い光源を、フラットフレーム撮影に使うようにしましょう。


フラット補正の方法について

上手くフラットフレームは撮影できたでしょうか。 最初は手際が悪くて、フラットフレーム撮影が面倒に感じてしまうかもしれませんが、 慣れるとそれほどでもありません。 最初は「失敗してもいいさ」という気持ちでチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

こちらでご紹介した撮影方法で所得したフラットフレームを用いた補正方法については、 画像処理ページのフラット補正の方法に記載しています。 是非そちらの画像処理のページもご覧ください。

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