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初めてのオートガイド撮影

天体望遠鏡とデジタルカメラを使った星雲や銀河の撮影では、 赤道儀を使用しても星が流れて写ってしまいます。 そのズレを監視、補正するのが「オートガイダー」と呼ばれる電子の眼です。 オートガイダーを使った撮影のことを、オートガイド撮影と呼んでいます。

このページでは、これからオートガイド撮影をはじめてみようと考えている初心者の方向けに、 撮影システム全体と必要な機器について、写真を交えながら説明しています。 なお、オートガイダーの種類については、当サイトの「オートガイダーの種類」をご覧ください。

オートガイド撮影の様子

まず、オートガイド撮影の機材の全体像を見てみましょう。 下は、オートガイド撮影で使用されている機材の一例です。

オートガイド撮影機材一式

星を追尾する赤道儀の上に、撮影に使用する天体望遠鏡が載っています。 その上にプレートを介して、小さなレンズが載っていますが、 これが追尾状況を監視するオートガイダー一式(オートガイダーとレンズのセット)です。

従来は「ガイド鏡」と呼ばれる小型の天体望遠鏡を上に載せ、その接眼部にオートガイダーを取り付けるのが一般的でしたが、 現在は、こうした小さなレンズが代わりによく使用されています。 昔と比べて機材がコンパクトになるので、持ち運びしやすく、値段も手頃になりました。

オートガイド撮影の接続例

上の写真ではケーブルが接続されていませんでしたが、実際に撮影する時は、 信号をやり取りするためのケーブルを、赤道儀とオートガイダーに接続しなければなりません。 接続の様子を、下の撮影システムの接続図に示しましたのでご覧ください。

オートガイドの接続例

ビクセンSXP赤道儀とQHY CCDのオートガイダーを使った場合の接続例ですが、 他の赤道儀の場合でもそれほど変わりはないでしょう。 なお、タカハシTemmaシリーズ赤道儀の場合、オートガイダーからのケーブルは、 赤道儀本体のパネルに接続する形になります。

図をご覧いただくと、オートガイダーから2本のケーブルが出ているのがわかります。 一本は、赤道儀のコントローラーに接続されています。 この接続ケーブル(オートガイドケーブル)は、 オートガイダーからの補正信号を赤道儀のコントローラーに伝えて赤道儀を動かすためのものです。

オートガイダーとパソコンは、USBケーブルで接続します。 オートガイダー単体では動作の制御ができないため、パソコンのソフトウェア上で制御する必要があるためです。 オートガイダーの制御ソフトには、「PHD Guiding」というフリーソフトがよく使用されています。 なお、オートガイダーの電源は、USB端子から供給されます。

※M-GENをはじめとした、スタンドアローン型のオートガイダーの場合は、パソコンとの接続は必要ありません。 スタンドアローン型は、オートガイダー本体に専用のコントローラーが付属しているので、 それがパソコンの代わりにオートガイダーを制御します。

オートガイド撮影に必要なアイテム

オートガイド撮影の全体像がわかったところで、オートガイド撮影に必要な機器を一覧にまとめてみましょう。

@撮影に使う天体望遠鏡
A赤道儀一式
B撮影に使うデジタルカメラ
Cオートガイダー一式(オートガイダー本体、レンズ、バンド)
Dオートガイダーを望遠鏡に固定するプレート類
Eオートガイドケーブル
Fノートパソコン(PHD Guidingインストール済)

@からBの機器は、天体望遠鏡を使って撮影したことがあれば、既にお持ちだと思います。 従って、新たにオートガイド撮影を始めるにあたって必要な機器は、CからFということになります。

オートガイド撮影機材一式 オートガイダーには様々な機種がありますが、最近は天文ショップで、オートガイダー本体とレンズ、 それに固定金具をセットにした機器が発売されています。

右写真はその一例ですが、オートガイダー本体(銀色部分)にレンズ(黒い部分)がねじ込まれていて、 オートガイダーを固定するためのバンドとプレートが付属しています。 これからオートガイドを始める方には、こうしたセット品が手軽でお勧めと思います。

この他に、撮影用望遠鏡の上にオートガイダー一式を固定するプレートが必要になります。 固定用金具として、右下の写真のような、鏡筒バンドの上に固定するトッププレートやアリガタ金具が用いられています。 オートガイダー一式を購入した店舗で相談すれば、 お持ちの天体望遠鏡に合ったプレート類を教えてもらえると思います。

オートガイド撮影機材一式 赤道儀とオートガイダーを結ぶオートガイドケーブルは、オートガイダーに付属しています。 ただお使いの赤道儀によっては、標準付属のケーブルでは接続できない場合がありますので、 その場合は別途購入する必要があります。

具体的には、ビクセンSXPやSXD2赤道儀なら標準付属のケーブルが使用できますが、 タカハシ赤道儀の場合は、専用ケーブル、もしくは変換アダプターが別途必要になります。

ノートパソコンは、現在お使いのもので大丈夫でしょう。 オートガイダーを制御するためのソフトウェア(PHD GuidingやPHD2)をインストールしておきましょう。

オートガイド撮影の予算

オートガイド撮影を実現するための費用ですが、 既に撮影用機材とノートPCをお持ちで、オートガイダー一式だけを追加購入する場合は、 上のC〜Eが必要になるだけですので、比較的リーズナブルと思います。

現在、天体写真ファンによく使用されているオートガイダー「QHY5L-IIM(上で紹介している機器)」でしたら、 本体は、35,000円程度で購入できます。 それにオートガイダーに繋げるレンズと固定プレート類を合わせて、 合計8万円前後の追加費用というところだと思います。

オートガイド撮影のための追加装備が8万円と考えると高額に思えますが、 数年前までは、オートガイダーだけで10〜15万円以上、 ガイド鏡と合わせると、20万円は軽く超えるというのが当たり前の世界でした。 当時と比較すると、手に入れやすい価格になったといえるのではないでしょうか。

ところで、2016年ごろから、QHY5L-IIMと比べてより安価な、 ToupTek社のCMOSカメラもオートガイダーとして用いられるようになりました。 オートガイド用として人気のあるToupTek社のToupCamカメラを実際に使用してみたところ、 QHY5L-IIMよりも若干ノイズが多く感じられましたが、オートガイドには支障ありませんでした。

ToupTek社のToupCam CMOS01200KMAの販売価格は2万円前半ですので、 より安価にオートガイド撮影システムを構築されたい場合は、 こちらのカメラも検討されてみてはいかがでしょうか。

オートガイド撮影の手順

オートガイドの撮影システムの概要がわかったところで、実際の撮影の手順を見て行きましょう。 ここでは、ビクセンSXP赤道儀を例にご紹介しています。

@赤道儀と望遠鏡の設置
A赤道儀の極軸合わせ
B赤道儀のアライメント
Cデジカメのピント合わせ
Dオートガイダーのピント合わせ
E撮影対象を自動導入
Fオートガイダーのキャリブレーション
Gオートガイドスタート
H撮影開始

一覧にすると大変な手順に思えますが、慣れればそれほど大変な作業ではありません。 今までに天体望遠鏡を使った直焦点撮影をしたことがある方なら、 D、F、Gがこれまでの作業に追加されただけです。 以下で、一つずつの項目について、説明していきます。

赤道儀と望遠鏡の設置

天体望遠鏡の設置 赤道儀は、できるだけ固くてしっかりとした地面に設置するようにします。 三脚は伸ばしすぎると強度が落ちるので、なるべく短い状態で使用するようにしましょう。

赤道儀を載せる前に、三脚の北を示す出っ張りが、北方向に向いているか確認しておきましょう。 また、三脚のヘッド部分が水平になるように脚の長さを調整しておけば、 北極星を探すのが楽になります。 三脚設置用に、水準器と、三脚の高さを変えられる三脚アジャスターを用意しておくと便利です。

天体望遠鏡やデジタルカメラ、オートガイダー類は、赤道儀にしっかりと固定します。 バランスウェイトの重さと位置を調整して、軸周りのバランスを取ります。

最後にケーブルを繋いでから電源を入れます。 ケーブルの本数が多いときには、自動導入中に赤道儀に絡まらないように注意しましょう。

赤道儀の極軸合わせ

極軸望遠鏡 赤道儀が設置が完了したら、赤道儀の極軸を天の北極に合わせます。 極軸望遠鏡のスケールを回して、指示された位置に北極星を導入しましょう。

ビクセンSXP赤道儀のコントローラー「STARBOOK TEN」をお使いの場合、 オートガイド撮影を実施する前に、赤道儀のモードを「極軸を合わせた赤道儀」にあわせておく必要があります。

また、赤道儀の駆動方向も「X-Y軸」に変更しておきましょう。 その他、PEC機能や大気差補正もOFFにしておきます。 詳しくは、赤道儀のマニュアルを参照してください。

赤道儀のアライメント

アライメント作業 極軸合わせが完了したら、赤道儀のコントローラーに表示されている中から明るい星を選んで、 天体の自動導入を行いましょう。 選ぶ星は、撮影したい天体の位置にもよりますが、南中前の明るい星がお勧めです。

自動導入が完了したら、指示した星がファインダーの視野中央に入っているか確認します。 入っていない場合は、コントローラーのボタンを押して中央に入るように調整します。 最終的に、デジタルカメラの視野中央に入ればOKです。

デジタルカメラの視野中央に目標の星が入ったら、コントローラーのアライメントボタンを押して、 アライメントを行います。 これで次回の自動導入からは、目的の天体が視野のほぼ中央に入るようになります。

デジカメとオートガイダーのピント合わせ

微動ピントノブ アライメントした星を使用して、撮影用望遠鏡のピント合わせもしておきましょう。

デジタルカメラのファインダーでおおよそのピントを合わせた後、 ISO感度を一杯まで上げ、ライブビューモードに切り替えます。 ライブビュー画面の星の部分を拡大して、星像が一番小さくなるまで、望遠鏡のドロチューブを前後させます。 この時、バーティノフマスクを使用すると、正確なピント位置がわかりやすくなりますのでお勧めです。
※バーティノフマスクについては「ピント合わせの方法」をご覧ください。

撮影用望遠鏡のピントが合ったら、オートガイダーのピントも合わせておきましょう。

パソコンを起動して、オートガイダーを認識させます。 それからオートガイダーに付属する制御ソフト、もしくはPHD Guidingを起動して、 画面に写った星像が小さくなるように、オートガイダーに取り付けているレンズのフォーカスリングを回します。

なお、オートガイダーのピント合わせを撮影場所で行うのは大変ですので、 撮影に出かける前に、ご自宅でピント合わせを行い、フォーカスリングを固定しておくことをお勧めします。 この時に、購入したオートガイダーの動作確認もしておくとよいでしょう。
※PHD Gudingについては、「PHD Guidingの使用方法」を参照ください。

撮影対象の自動導入

自動導入開始 ピント合わせが終了したら、撮影対象を自動導入しましょう。 アライメントを実施した後なので、コントローラーで目的天体を選べば、 ほぼデジカメの中央に天体が入ってくるはずです。

もしこの時に、自動導入した方向と、目的天体が大きくずれている場合は、 極軸合わせに間違いがないかチェックしてみましょう。

目的天体が入ったら、デジカメのファインダーを覗いて構図を合わせます。 淡い星雲の場合は、ISO感度を上げて数十秒露出で試写すると、 星雲の形がわかり、構図を合わせやすくなります。

オートガイダーのキャリブレーション

PHD Guidingのキャリブレーション 撮影対象が視野内に入ったら、オートガイダーのキャリブレーションを行います。 キャリブレーションとは、オートガイダーの信号に対して、赤道儀がどの方向にどの程度反応するか、 ということを制御ソフトが学習するための作業です。

PHD Guidingの場合、キャリブレーションは、画面に映った明るい星をクリックするだけです。 お使いのオートガイダー制御ソフトウェアによっては、 同じような明るさの星が画面に複数あると、キャリブレーションに失敗することがあります。 その場合は、一旦赤道儀を動かして星の位置を調整し、キャリブレーションを実施しましょう。

一旦赤道儀を動かした場合は、キャリブレーションが完了後、もう一度構図を合わせます。

オートガイドを開始

オートガイド撮影開始 キャリブレーションが完了したら、オートガイドをスタートさせます。 なお、PHD Guidingの場合は、キャリブレーション完了後、自動的にオートガイドが始まります。

オートガイドを開始してからしばらくの間は、追尾が不安定になりやすいので、 シャッターを切るのは待ちましょう。 1分〜2分程経過して、ガイド動作が安定したら、 撮影用望遠鏡に取り付けているデジタル一眼レフカメラのシャッターを切り、撮影を開始します。

一枚目の露出が終わったら、撮影画像をモニターで確認して、 星が流れていないかどうかを確認します。 オートガイドに問題なければ、天体の撮影を続けましょう。

もし星が流れて写っている場合は、キャリブレーションから再度試してみてください。 それでも改善されない場合には、望遠鏡やオートガイダーの取り付けや、 デジカメの接続部分が緩んでいないかを確認してみましょう。

オートガイド撮影のまとめ

オートガイド撮影ができるようになると、今まで以上に長い露出時間で撮影することが可能になります。 また、長い焦点距離での撮影も楽しめますので、より多くの多様な天体が被写体となってきます。

文章だけ読んでいると、「オートガイド撮影は難しそうだな」と思われるかもしれませんが、 実際にやってみるとそれほど複雑ではありません。 習うより慣れろ、の気持ちでオートガイド撮影にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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