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フラット補正の方法

デジタル天体写真の世界では、周辺減光を緩和するために、 フラット補正と呼ばれる画像処理がよく用いられます。 この処理は、フラットフレームという画像データーを用いて、 露光画像から光学系に起因する周辺減光を演算補正することで行われています。

少し難しそうな処理ですが、処理自体はソフトウェアが行うので、 順を追っていけば簡単に処理することができます。 このページでは、そのフラット補正の様子をご紹介しています。


フラット補正とは

フラット補正の様子 フラット補正とは、フラットフレームと呼ばれる何も写っていない画像を用いて、 撮影画像に生じた周辺減光を補正する処理をのことです。

星雲や星団の撮影画像で発生しやすい周辺減光を補正できるので、 とても有益な画像処理方法の一つですが、慣れないと少し難しく感じられるかもしれません。

右の画像は、デジタルカメラで撮影した天体のモノクロ画像です。 上画像は、フラット補正前の画像です。 画像中央は明るいですが、四隅にいくほど暗くなり、周辺減光が発生しているのがわかります。

この画像にフラットフレームを適用して、フラット補正したのが下の画像です。 片方だけだとわかりづらいですが、上と下の画像を見比べると、 周辺減光が補正され、画像の背景の明るさが一様になっているのがおわかりいただけると思います。

こうした右の一連画像のような補正を行う処理を、フラット補正と呼んでいます。 なお、フラットフレーム自体の説明や、フラットフレームの撮影方法については、 天体写真撮影方法の中のフラットレフレームの撮影方法のページをご覧ください。


フラット補正が必要な理由

撮影元画像 人物写真や風景写真の分野では、画像周辺の光量が落ちても、それが作品の味にも繋がることもあり、 補正が必要とは限りません。

しかし、天体写真、特に星雲の写真場合は、周辺減光を補正することは、 色鮮やかな作品を仕上げる上で重要なポイントです。

天体写真ファンに人気がある星雲の一つに、ぎょしゃ座の星雲があります。 大変色鮮やかで美しい領域ですが、撮影したままの画像は右のようにコントラストが低く、 色も鮮やかではありません。 これをギャラリーで展示しているような色鮮やかな作品にするためには、 星雲を強調する画像処理が必要です。

フラット補正を行わずに画像を強調すると、下の左画像のように、 星雲部分だけでなく、周辺減光までもが強調されてしまいます。 強調すればするほど、中央だけが明るくなるので、写真を美しく仕上げるのが難しくなってしまいます。

一方、下右側写真は、フラット補正を行った後に強調処理を施した画像です。 画像の背景の明るさは全体に渡って均一で、星雲や星団の様子も美しく表現されています。 このように、星雲の写真を明るく仕上げたいなら、フラット補正は必須の前処理と言えます。

フラット補正前と後の比較画像


まずはフラット補正をしてみよう

フラット補正に慣れるには、理論は忘れて、まずは実際にフラット補正をやってみることです。 何度か実際にやってみれば「こういうことなのかな?」と自然にわかってきて、 応用力も養われてきます。 まずは気軽にトライしてみましょう。

ここからは、天体写真の画像処理に人気のソフトウェア「ステライメージ7」を使って、 フラット補正を実施している様子をご紹介します。 なお、実際にフラット補正を行うには、フラットフレームが必要です。 ここからは、フラットフレームのご用意はできているものとして、フラットフレームの前処理から行っていきましょう。


フラットフレームをコンポジット

フラットフレームの読み込み設定 撮影してきたフラットフレームを、まずはステライメージで開けてみましょう。 フラットフレームもコンポジットしますので、最低でも4枚程度は撮影しておきたいところです。

ステライメージで画像ファイルを開くときには、ファイルの読み込み設定を聞かれますので、ベイヤー配列を選びます。 また、ダーク減算処理が必要でしたら、ダークフレームファイルを指定し、開くと同時にダークを引くとよいでしょう。 右では、ニコンD810Aのフラットフレームをベイヤー配列で開いているところです。

フラットフレームを開くと、画面に現像前のモノクロの画像で表れるはずです。 撮影した全てのフラットフレームを同じ方法で開きましょう。

全てのフラットフレームをベイヤー配列で開いたら、ランダムノイズを減らすためにコンポジットを行います。 ステライメージ7のバッチ処理からコンポジットを選び、 加算平均で開いた画像をコンポジットしましょう。 なお、画像の位置合わせは必要ありません。

コンポジットが終了したら、完成したファイルに新しい名称を付けて、fits形式で保存しておきます。 今後、このコンポジットしたファイルを使って、撮影画像のフラット補正を行っていきます。


撮影画像を開いてみよう

PC上でフラット補正の様子 フラットフレームの用意が整ったら、撮影した星雲や星団の撮影画像を開きましょう。

撮影画像もベイヤー配列で開きます。 ファイルを開くときにダーク補正が可能ですので、ダークファイルを作成しているなら、 開くと同時にダーク減算してしまうと便利と思います。

撮影画像を開くと、先ほどのフラットフレームと同じようにモノクロの画像が開きます。 デジカメの液晶モニターに表示された画像と違って、ベイヤー配列のためにコントラストが低い画像になっています。 そのため、星が写っているのがわかるだけで、周辺減光は全くわからないかもしれません。 フラット補正の効果を調べるため、レベル補正で軽く画像を強調して、周辺減光がわかる程度までコントラストをあげてみましょう。

ちなみに、ベイヤー配列とは、RAW現像処理がまだ行われていない画像のことです。 通常、デジタルカメラで写真を撮影すると、カメラ内で現像処理が行われ、カラー画像になってモニターに表示されます。 その処理が行われる前の画像なので、モノクロ画像となっているわけです。 画像を拡大すると、ピクセルが格子状に並んでいるのがわかり、撮影したままのデーターであることがわかります。

なお、ベイヤー配列で開ける画像は、RAWモードで撮影した画像のみです。 JPEGモードで撮影すると、フラット補正やダーク補正をすることができませんので、 必ず、RAWモードで撮影しましょう。


フラット補正を実施

PC上でフラット補正している様子 実際にフラット補正を撮影画像に施してみましょう。

ステライメージ7のメニューの中から「ダーク/フラット補正コマンド」を選択します。 フラット補正のダイアログが開いたら、先ほど作成したフラットフレームを指定しましょう。 撮影画像のダーク補正が必要な場合は、このコマンドでダーク補正も一度に行うことができます。

ステライメージ7には、プレビュー機能が付けられたので、左下のプレビューボタンを押すと、 フラット補正前と後の画像を比べることができます。 理想的なフラットフレームが得られていれば、周辺減光が減った画像がプレビューで表示されるはずです。

もし、周辺減光の補正が強すぎたり、弱すぎたりする場合は、ダイアログボックスの下にある、 ガンマとオフセットのスライダーを調整してみましょう。 プレビューで周辺減光の補正の様子を見ながら、ちょうどよいところでOKボタンを押すと、 周辺減光が補正された撮影画像になるはずです。

少々とっつきにくい天体写真のフラット補正ですが、こうして順を追ってみると案外とシンプルな行程だと思います。 もし何枚か撮影画像があれば、上記のように一枚ずつフラット補正を行ってもよいですし、 すべての撮影画像を開いてから、バッチ処理を使って一気にフラット補正を行うのもよいでしょう。


フラット補正の難しい点と様々な方法

フラット補正の失敗 長々と説明してきたフラット補正の方法ですが、初めて行うと過剰に補正してしまったり、 逆に補正が少なすぎたりと、上手くいかないことがあります。 これらがフラット補正が難しいと思われる原因ではないでしょうか。

こうした原因のほとんどは、適正に補正できるフラットフレームをうまく作れていないために起こります。 しかし、良好なフラットフレームを作成するのは経験が必要で、何度かやってみて勘を得るしかありません。 また、使っている撮影光学系や補正レンズによっても、最適なフラットフレームは異なりますから、 一概にこれがベストの方法と言えないところが難しいところです。

撮影画像に合っていないフラットフレームを用いてフラット補正を施すと、 右上画像のように、周辺の方が明るくなってしまうことが起こります。 天体写真には有用なフラット補正ですが、これでは目も当てられませんよね。

また、デジタル一眼レフカメラの場合、撮像素子にRGBセンサーが用いられている関係で、 色によって周辺減光の出方が違うということがあります。 そのため、ベイヤー配列の画像をフラット補正した後に、 RGBカラー現像を行うと、レッドやブルーだけが過剰に補正された画像が表示されることが起こります。

これを防ぐために、撮影画像を3色分解してから、RGBごとにフラット補正を行う方法があります。 少し手間はかかりますが、私もデジタル一眼レフカメラの画像をフラット補正するときに用いていました。 もちろんモノクロ冷却CCDの場合なら、RGBごとにフラットフレームを用意してフラット補正を実施しています。

最後に、使用しているデジタルカメラによって、適正なフラット補正の方法やフラットフレームの作成方法が異なると感じています。 例えば、私の使っていたニコンD50の場合には、現像後にフラット補正を施した方が上手くいくことが多いです。 それに対して、キャノンEOSKissデジタルXの場合には、ベイヤーのままの方が綺麗に補正できるように思います。 ここに記載の方法でまずは試していただいて、それで上手くいかない場合は、 アレンジされてみてはいかがでしょうか。


カブリ補正について

以前、当コラムに記載していた「Ryutao流裏技」にて、フラット補正の過剰な補正を減らすため、 係数をフラットフレームに掛けたり、画像補正を施したフラットフレームを用意して、 フラット補正に用いる方法をご紹介していました。

幸いにもアストロアーツ社のステライメージ7に同様の機能が採用され、 ダーク・フラット補正コマンドを開くと、ガンマとオフセットを調整することで、 フラット補正の適用量を、ユーザーが選択することができるようになりました。 この機能は、プレビュー画面を見ながら行えるので、大変便利だと思います。

ところで、フラット補正に関するご質問の中で、 光害カブリをフラット補正の失敗と思われている方もいらっしゃるようです。 フラット補正は、あくまで光学系の周辺減光を補正するための処理ですから、 フラット補正だけで、光害のカブリ補正も同時に行うことは、ほとんど不可能と思います。 星空にカブリ(光害の影響で画像の左の方が明るいなど)があった場合は、それはフラット補正後に別途処理しなければなりません。

カブリ補正は、ステライメージ7に用意されてる周辺減光/カブリ補正コマンドが便利です。 また、このコマンドを用いれば、フラット補正と同じように周辺減光の補正も可能です。 フラットフレームの撮影が難しい場合は、このコマンドを試してみてはいかがでしょう。