デジタル一眼レフの画像処理

Ryutao流
『いろんなソフトのいいとこ取りして、簡単綺麗に仕上げる!』

カメラ業界ではデジタル一眼レフカメラ(以下デジ一眼)が大人気で、天体写真も例にもれず、デジ一眼で撮られた写真がわんさか発 表されています。ただ買ったそのままの状態だとHα光を透過しないので、赤い星雲が写ってくれません。それで皆さんフィルターを換装 し、赤い散光星雲を写しまくっています。ほんっとに今や大人気アイテムですよね。

しかし撮影はよいのですが、問題は画像処理。特に天体写真を始めたばかりの人は悩んでしまって、ここで諦めてしまい「天体写真なんて、や〜めた」と いう方も多いそうです。そこでここでは、雑誌とかに載っているようなややこしい内容はやめて、簡単にイメージがつかめて美しく仕上がる方法を書いてみました。

1.画像処理ソフトはいっぱいある

巷には画像処理ソフトがあふれかえっています。天体写真の画像処理ソフトとしては、アストロアーツ社のステライメージが有名ですよね。雑誌でもこ のソフトの優秀さが書かれているので、「これさえあれば天体写真はOK」って感じですが、使いこなすにはちょっとややこしいソフトでもあります。

そこでここでは、いろんなソフトのわかりやすい点だけ使って、D70改で撮ったM42の4枚画像を作品に仕上げてみましょう。

今回ここで使うのは「PhotoshopCS」「ステライメージ5」「RAP」です。なお、PhotoshopではRaw現像機能だけ使うので、CameraRawが使えた らElementsでもOKです。もちろんCS2でもOKです。ステライメージもRawファイルの展開は使わないのでVer4でもOKかもしれません。

2.まずは撮った画像をみてみよう

さぁ、まずは撮ってきた画像を見てみましょう。右はISO感度を800に設定し、5分露出で撮ったオリオン大星雲の一枚未処理画像 です。もちろんRawモードで撮影しています。JPEGで撮ったらこのページを読む意味がないので、必ずRawで撮ってきてくださいね。

さてこの画像を拡大して見ると、点々とダークノイズが写っているはずです。また左上には、アンプ熱ノイズと呼ばれるピンク色の カブリが出ています。何はともあれ、まずこれらを消しちゃわないといけません。早速RAPを立ち上げてみましょう。

なぜステライメージではなくて、RAPでダークを引くかと言うと、RAPは処理が早いことと、ダーク減算後もニコンフォーマット(NEF形式)で保存 できるからです。この恩恵はあとあと受けることになるので、ここは迷わずRAPを使いましょう。

3.RAPでダークを引こう

RAPでまずしなければならないのは、撮影時に撮ったダーク画像をいくつか使い、高品質のダークファイルを作る作業です。

デジ一眼のダーク画像は、撮影が終了した後に続けて撮っておくことが大切です。家に帰ってきてからでは、なかなか同じ気温にはなりません し、たとえなったとしても連続撮影後のCCD自体の温度は再現しにくいものです。撮影が終わったら4枚くらいは撮っておきましょう。

右がRAPの画面ですが、「処理」を選んで「ダーク作成」を押すと図のようなダイアログボックスが出ます。M42を撮った後に撮影した ダーク画像を何枚か指定し、高品質なダークファイルを作りましょう。

「ダークファイルはできましたか?」

できたら今度は、その高品質ダークファイルを使って、M42のノイズを取っちゃいましょう。 まずはファイルからM42の画像を開きます。それから「処理」→「ダーク減算」と進むと右ようなダイアログボックスが開きますので、先ほど作ったダ ークファイルとダーク減算後の保存先を指定し「実行」です。

これで、きっとM42画像はダークノイズもアンプ熱ノイズも消えて綺麗になっているはずです。もし綺麗になっていなかったら、ダーク画像が悪いのだと思います。

「露出時間は主露光画像と同じになっていますか?」
「ISO感度も同じですか?」
「当たり前ですが、Rawモードでダーク画像も撮っていますか?」
「横着して、帰ってきてから暖かいところでダーク撮ったりしていませんか?」

その辺りをチェックしてみてください。

4.今度は現像処理だけど・・・

「ベイヤー配列」ってご存じですか?最近デジ一眼も一般的になり、よく話に出てくるので有名ですよね。デジ一眼のカラーフィルタに使われ ている「RGGB」とかの色フィルターの並びのことです。

デジ一眼で撮った画像は、このベイヤー配列RGBフィルターを通してCCDに蓄光されています。JPEGモードなどでは、デジ一眼のカメラ内部 で画像処理が行われてカラー化がされ保存されています。しかしRawモードで撮影した場合は、光の強度だけを記録し、フィルター情報からの色づけ は行われていません。ですので、基本的に元画像はモノクロとなっています。メーカー提供の画像閲覧ソフトでカラーに見えるのは、ソフト上でカラー化されているからです。

ちょっと話がややこしくなりました。

とにかくダークを引いた後は、カラー現像処理しないといけません。ステライメージ5を使えば「現像あり」「現像なし」・・・などなど選べるのですが、ちょっとや やこしいですよね。それに現像後は色が薄いから、後々マトリクス色彩強調をかけるように、とか書いてあって、余計に頭が混乱します。そこで今回はビジュアル的にわ かりやすい、PhotoshopCSのCameraRawを使って、簡単お手軽に現像してみましょう。

※この他には「Nikon Capture Ver.4」でRaw現像する処理がよく使われています。キヤノン製カメラでもRAPでダーク減算後、TIFF保存すればこのソフトを利用できます。 このソフトをお持ちの方はこちらもお勧めの方法です。

5.Photoshopでカラー現像

さぁ、RAPを使ってダーク減算したNEFファイルをPhotoshopCSで開きましょう。なぜダーク減算処理をステライメージではなくて、RAPで行ったかというと、この機能 を使いたかったからなんですね。

Raw画像を開くと下のようなダイアログボックスが開きます。ここでは現像後の画像を見ながら、色温度や露光量を変えられるので、イメージが掴みやすく大変便利です。

まずこの画面でチェックすべきところは、右上のヒストグラムです。この図ではグレーバランスを合わせていますが、初めはRGB共にかなりずれていると思います。天体 写真といえども、グレーバランスを取ることは重要ですから、色温度と色かぶり補正のスライダを移動させて、なるべくバランスが取れるようにしてみましょう。「完璧に合わない・・・」 なんて神経質にならなくていいですよ。だいたいでOKですから、合わせてみましょう。

グレーバランスが取れたら「OK」ボタンを押して、Photoshopで画像を開きます。開いた後は、何も触らずにTIFF形式で保存しましょう。画像は4枚ありますから、それぞれ同じ作業 を繰り返して保存します。最初の画像を調整したときに色温度とかぶり補正量をメモっておくと、後は楽々作業ができると思います。

この次は4枚の画像をステライメージを用いてコンポジットし、仕上げていきましょう。

6.ステライメージでコンポジット処理

さぁ、そろそろ終わりが見えてきました。勘のいい方なら「ははぁ〜ん。ステラでコンポして色彩強調して仕上げちゃうつもりだな。ゴールは見えたぜ!」と思われるで しょう。大当たりです(笑)。

ステライメージ5で先ほど現像処理して保存したTIFFファイルを開きましょう。Raw形式ファイルではないので、ステライメージ4でも開くと思います。古いバージ ョンをお持ちの方も是非やってみてください。

Photoshopでもできるコンポジット処理に、ステライメージを使うのには理由があります。まずは画像に基準点を設けられるので、回転にも自動で対応してくれる こと。また「加算」などのいろいろなコンポジット処理を選べることです。また、ステライメージならではの優秀な機能も使いたいのです。自由度の高いレベル調整 コマンドや、デジタル現像コマンドはその象徴でしょう。

下はコンポジット処理しているステライメージの画面です。4枚の元画像を開き、基準点を2点指定して「加算平均」でコンポジットしたのが「M42_4com」というファイルです。こ の画面ではわかりにくいですが、とても滑らかに綺麗になっています。簡単ですから、早速コンポジットしてみましょう。

7.レベル補正で見栄えをよくしよう

コンポジット処理は上手くいきましたか?

基準点に選ぶ星を間違っていると、星が二重になったりしますから、画像を並列に並べて確認しながら処理しましょうね。コンポジットが上手くいったら念のため にファイルを一度保存しておきましょう。もちろん画像劣化がないFITS形式で保存しましょう。

今あなたの手元には、4枚の画像をコンポジットした M42の画像があります。これはダークも引いた画像を4枚も重ね合わせたので、十分なSN比を持った画像です。撮影 した甲斐がありましたね。あとは、ステライメージの多彩な機能を使って、できるだけ美しく仕上げてあげましょう。

まずはレベル補正です。レベル補正はシャドーとハイライトのスライダを移動し、表示する範囲を指定する画像処理です。難しいことはさておき、白三角と 黒三角のマークを移動させてみましょう。背景が少し明るくなって、星雲の淡い部分が見えやすくなる程度に調整してやるのがこつです。あまり淡い部分を強調 するとザラザラしちゃいますので、無理のない程度にしましょうね。

また、レベル補正していくと真ん中の白い部分が広がっていきますが、これはあとで補正できますから今は気にせずに処理していきましょう。

8.白くなった部分を復活させよう

レベル調整して星雲の淡い部分を強調していくと、星雲の明るい部分の白飛びが広がっていきます。これをステライメージのデジタル現像コマンドを使 って、補正していきましょう。

ステライメージのデジタル現像処理は、ヒストグラムの外側に出てしまって表示できなくなった明るい部分を圧縮し、表示できるヒストグラム内に押さえ込む 技術です。とっても簡単で便利なコマンドですから、今まで使っていなかった方も是非試してみましょう。

メニューの「階調」から「デジタル現像」を選ぶと、下のようなダイアログボックスが表示されます。ちょっと項目が多いですがそんなに難しいことはありません。 最初はデフォルトでもよいくらいです。慣れてきたら画像を見ながら、デジタル現像の範囲(ヒストグラムの下にあるグレー三角のマークです)をいろいろ変えて、好 みに合うように仕上げましょう。

どうですか、下の画像のように白い部分が復活してきたでしょうか。どうやっても白いままの部分は、元々の撮影画像で飽和してしまっている部分です。元画像が 白く飽和しているので、これは救えませんよね。もしどうしても表現したいと言うことであれば、撮影時に段階露出しておきましょう。

設定が終了し「OK」を押せば、M42画像の完成です。

もし「もう少し赤みを増したいな」ということであれば、「Lab色彩強調コマンド」で赤みを足してもいいですし、星や星雲のエッジ感を表現したいということであ れば、いろいろとそろっているシャープフィルタを使ってみてもいいでしょう。元ファイルを保存していれば、失敗しても何度でもやり直せますから、いろいろなツールを 試してみて自分流の方法を編み出してみてください。

9.後書き&デジタル一眼レフ雑感

長々と画像処理について書いてきましたが、この他にもたくさん処理方法はあると思います。どれが良いとかいうのではなく、自分に合う方法を見つけるのが一番だと思います。

これから初めて画像処理される方は、一度この方法を試して頂いて「ここは、こうした方がいいんじゃなかな?」という具合に自分に合う新しい方法を生み出してくれると幸いです。

デジタル一眼レフがこれほど一般的になってきたのは、2002年、キャノンからEOSD60が発売されてからだと思います。このD60は600万画素で当時30万円 もしました。今は600万画素のNikonD40なら6万円ほどで販売されています。すごい進歩ですよね。怖いくらいです(笑)。

銀塩フィルム上で解像できる限度は昔から30μm程度と言われていました。それに比べて、デジ一眼に使われているCCDチップ1ピクセルの大きさは6μm前後 です。この数値をみてもどれだけ解像度が違うかよくわかります。逆にそれだけ光学系に対する要求がシビアになったとも言えます。

人気の改造デジ一眼、大変よく写ります。上記の通り解像度も素晴らしいので、星雲の微細な模様もよく写しとってくれます。下の写真は上で処理したM42に、別 に撮っておいた1分画像を加算して仕上げた作品ですが、星雲のうねる様子が見事に写し出されていて、とても合計21分の露出時間の作品とは思えないほどです。

最近では、1000万画素を超す機種がデジ一眼の主流になってきました。D80やEOSkissDXなど、10万円弱の価格で素晴らしい性能を持つデジ一眼が登場し、 天体写真ファンに注目されています。ノイズの量も以前のものとは比べものにならないほどで、同じデジタルカメラの冷却CCDカメラの地位が危ぶまれるほどです。

ただ現状では、冷却CCDに幾分かのメリットはあるようです。実際に両方使っている立場からすると、ダイナミックレンジの広さは冷却CCDが圧倒的に有利です。 また元々天体用に作られていますので、小さな銀河や淡くて消え入りそうな星雲には視野の導入時からアドバンテージがあります。

こんなところから考えてみても、M42の中心部のような明るい天体にデジ一眼が向いている気がします。冷却CCDにとって、とても明るい天体は案外難しい 対象だと思います。ハンドリングの良さを生かして、こういう天体をどんどん写していくのが、デジ一眼を使う醍醐味ではないでしょうか。そう考えると、デジ一眼には 少し大きめで集光力がある明るい望遠鏡が合うような気がしています。

オリオン大星雲

デジ一眼画像処理