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キヤノンEOS6D レビュー

キヤノンEOS6Dは、2012年11月末に発売開始されたデジタル一眼レフカメラです。 35ミリフルサイズセンサーが使用された機種ですが、同社のEOS5Dシリーズと比べ、 手に入れやすい価格ということもあり、星景写真用としてだけでなく、 フィルターを換装して星雲や銀河の撮影用としても使われています。

2017年夏、後継機のキヤノンEOS6D MarkIIが発売開始されました。 バリアングル液晶が採用され、天体撮影により使いやすくなりましたが、 センサーのダイナミックレンジの狭さなどが酷評されたこともあり、 2017年末時点では、天体写真撮影用として、それほど人気ではないようです。


キヤノン EOS6Dの概要

キヤノンEOS6Dボディ キヤノンEOS6Dは、同社のデジタル一眼レフカメラのラインアップの中で、 フルサイズの入門機として位置づけられているモデルです。

EOS6Dの撮像素子には、有効画素数約2020万画素の35ミリフルサイズCMOSセンサーが用いられています。 面積が広い35ミリフルサイズのセンサーとしては画素数は少ないので、 ピクセルサイズ(1画素のサイズ)は、6.58μmと大きくなっています。

キヤノンEOS6Dは、同社の上位機種、キヤノンEOS5DMarkIIIと比べると、画素数は200万画素ほど少なく、 AF機能やシャッター機構が簡略化されています。 しかし、その分価格は安く、2017年現在のキヤノンEOS6D実売価格は12万円ほどと、 APS-Cサイズのセンサーが用いられた上位機種よりも安価になっています。

発売当初は、EOS5DMarkIIIに比べて、それほど注目されていませんでしたが、 しばらくしてから、星景写真ファンがEOS6Dを使用し始め、コンテストで作品を見かけるようになりました。 その後、実勢価格が下がってくると、EOS6Dのフィルター改造を施し、 星雲の撮影を楽しむ天体写真ファンがあらわれ、人気が高まりました。 2017年現在、天体写真撮影に最も人気があるカメラの一つでしょう。


キヤノンEOS6Dの人気の理由

キヤノンEOS6Dが天体写真ファンに支持されているのは、 長時間ノイズの少なさと手に入れやすい実勢価格、それに天体写真分野において、 長年の実績のあるキヤノン製だからでしょう。

天体写真の世界では、長時間露出で撮影した画像を強調処理するため、 暗部のノイズが多いと、星雲が滑らかに仕上がりません。 その点、キヤノンEOS6Dには、ピクセルサイズの大きな35ミリフルサイズセンサーが用いられているので、 低ノイズが期待できます。 実際、APS-Cセンサーが用いられたカメラとノイズを比較すると、ノイズの少なさがよくわかります。

※下画像はEOS8000Dとのノイズ比較。中央部ピクセル等倍画像(強調処理済)

撮影条件 キヤノンEOS8000D キヤノンEOS6D
ISO1600
600秒
外気温13℃
EOS8000Dの長時間ノイズ,ISO1600,600sec キヤノンEOS6Dの長時間ノイズ
ISO3200
600秒
外気温13℃
EOS8000Dの長時間ノイズ,ISO3200,600sec キヤノンEOS6Dの長時間ノイズ

35ミリフルサイズセンサーが用いられたデジタルカメラとしては、手に入れやすい価格も魅力です。 夜空で輝く散光星雲を色鮮やかに撮影する場合は、 デジタルカメラのセンサーの前に取り付けられたフィルターを交換、もしくは取り外す必要があります。

フィルター換装後は、一般撮影には使用できなくなるため、APS-Cセンサーが用いられた入門機が改造の主流でした。 しかし、EOS6Dは手頃な価格で、中古品の流通量も多いので、安く手に入れてフィルター改造し、 星雲を撮影するユーザーが増えました。

また、キヤノンEOS6Dに限ったことではありませんが、キヤノンEFマウントはマウントの内径が広く、 天体望遠鏡の撮影時にケラレなどが発生しにくい利点があります。 キヤノンが、無償でカメラコントロールソフトを提供しているのも、 パソコンからカメラ制御を行う天体写真のハイアマチュアにとっては魅力の一つです。

2015年以降は、ニコンD810Aが発売されて以降はニコンユーザーも増えてきましたが、 天体写真ファンの多くがキヤノン製カメラを使っていることもあり、 ユーザー間でカメラの情報を得やすいメリットもあげられます。


冷却改造されたキヤノンEOS6D

デジタルカメラのノイズ発生量は、イメージセンサーの温度が低いほど少なくなります。 その特性を生かして、2007年頃から冷却ユニットが取り付けられた、 改造デジタル一眼レフカメラが発売されるようになりました。

当初、冷却改造に選ばれたモデルは、APS-Cサイズのセンサーが用いられた中級機でしたが、 フルサイズデジタル一眼レフカメラの普及と共に、やがて、EOS6Dも冷却改造されるようになりました。

キヤノンEOS6D 天体写真用モデル

上は、Central DS社が、EOS6Dを冷却改造して販売している「Astro6D」です。 従来の冷却改造モデルと異なり、カメラ本体からセンサーを取り外して、 冷却チャンバー内にセンサーを固定しているのが、この改造方式の特徴です。

カメラのシャッターユニットを取り外しているため、バルブ撮影専用機となっています。 レンズの絞りも動かず、センサークリーニング機構も使用することができません。

一般撮影には使えなくなりましたが、この改造方式を採用したことで生じたメリットもあります。、 まず、デジタル一眼レフカメラのミラーボックスで発生していたケラレを、除去することが可能になりました。 下の比較画像からも明らかなように、Astro6Dの周辺光量は豊富で、フラット補正が成功しやすくなりました。

フラットフレームの比較画像

また、従来の改造方式と比べ、効率的にセンサーを冷やすことが出来るので、 冷却ユニットの消費電流が減ったこともメリットと言えるでしょう。 Astro6Dのパッシブモードなら、モバイルバッテリーでも駆動できるようになりました。

なお、Astro6D以外にも、Cooled 6Dというモデルが望遠鏡販売店で販売されています。 Cooled 6Dも冷却方式は、Astro6Dとほぼ同じ方式を採用しています。
※Cooled 6Dの製造販売は終了しています。


EOS6Dのノイズと星像

画像処理エンジンの改善で、著しくノイズが減った最新のデジタル一眼レフカメラですが、 ノイズの処理方法によっては、微恒星が消えてしまったり、写真の暗い部分に目を向けると、 ザラツキが気になる機種があります。

天体撮影の場合は、被写体が非常に暗いので、暗い部分のノイズの少なく、 かつ、自然なノイズ処理が行われている機種が求められています。 以下、EOS6Dを使用して撮影した画像を見ながら、暗部のノイズと星像を確認してみました。

EOS6Dで撮影した天体写真

上画像は、Astro6Dで撮影した「干潟星雲と三裂星雲」の写真です。 未処理の画像なので、コントラストが低く、見栄えが悪いですが、 ノイズの出方や星像について確認するには適していると思います。

EOS6Dで撮影した天体写真の拡大

上に中央付近のピクセル等倍画像を掲載しましたが、暗部は滑らかで、 微恒星もカメラ内の処理によって消えてしまったり、星像がイビツになることはありませんでした。 下は、上の画像をレベル補正で強調したデータですが、ノイズは目立つようになったものの、 不自然な縞模様などは発生しませんでした。

EOS6Dで撮影した天体写真の強調画像

なお、撮影条件は、ISO1600で露光時間は210秒です。 ノイズ低減処理はすべてオフで撮影をしています。 Astro6Dのセンサーの温度は約7度でしたので、 通常のキヤノンEOS6Dなら、春先や秋に撮影したときと同じぐらいのノイズ発生量でしょう。


キヤノン EOS6Dを使用して気づいた点

キヤノンEOS6dで撮影した天体写真 キヤノンEOS6D(Astro6d)を星空や天体の撮影に使用して気付いた中で、 以上の項目では触れなかった点を、以下にまとめました。

Astro6Dは、短い露光時間で撮影したフラットフレームでフラット補正を行うと、 周辺減光の補正に失敗することが多いと感じました。 シャッターユニットが取り外されている影響だと思います。 なるべく十秒以上の露光時間で、フラットフレームを撮影した方が良さそうです。

EOS6Dは画素数が少ないため、ニコンD810Aをはじめとした高画素機と比べると、解像力が低いと感じます。 銀河の腕の暗黒帯の表現など、ディテールの面では高画素機種に若干劣ると感じています。

従来の冷却改造機と比べて、 Astro6Dに用いられている冷却ユニットのファン(EXcoolerファン)は非常に静かで、 動作時でもほとんど音が聞こえません。 消費電流も少ないので、容量の小さな電源でも使用可能です。


冷却CCDカメラと比べて

天体撮影用として魅力的なAstro6D(キヤノンEOS6D 冷却改造モデル)ですが、 実売価格は38万円前後と高く、モノクロ冷却CCDカメラと比較検討される方も多いようです。 そこで、モノクロ冷却CCDカメラ(Moravian G3-16200)とAstro6Dの違いを表にまとめました。

Astro6D 冷却CCDカメラ(モノクロタイプ)
電源 パッシブ冷却ならモバイルバッテリーで冷却ユニット駆動可能 大容量のバッテリーが別途必要
パソコンの電源も必須
フィルターワーク フィルター使用可能
ナローバンド撮影も可能
フィルター使用可能
ナローバンド撮影に最適
カメラレンズ 開放絞り、バルブで使用可能 別売カメラマウントを介して使用可能(絞り開放)
ノイズ 低ノイズ(低温ならダーク補正不要) 低ノイズだが輝点ノイズが発生するのでダーク補正必要
センサー温度 外気温からマイナス20度前後
(設定不可能)
外気温からマイナス35度前後
(任意の温度に設定可能)
解像度 EOS6Dの解像力 モノクロセンサーなので、同画素数のデジカメよりも高解像
ダイナミックレンジと階調 EOS6Dと同様(14ビットの階調) 広いダイナミックレンジと16ビットの広い階調
扱いやすさ 容易(デジタルカメラと変わらない) 望遠鏡との接続方法を考える必要がある
結露の心配がある
撮影時間 ISO感度を変更することで露光時間が変えられる 感度の設定はできない
カラー画像を得る場合は、フィルター毎に撮影が必要なため時間がかかる
画像処理 カラー画像が容易に得られる カラー作品を得ようと思うと、RGBフィルターを使った撮影と、カラー合成処理が必要
その他 モデルチェンジが早く、新製品が発売されると旧機種になってしまう モデルチェンジが少なく、長年使用できる

以前は、淡い星雲の撮影と言えば、冷却CCDカメラの独壇場でしたが、EOS6Dが普及するにつれ、 デジタル一眼レフカメラでも撮影されるようになりました。 実際、冷却CCDカメラと散光星雲を撮り比べてみても、解像感に若干差は出るものの、 最終的な作品の仕上がりは甲乙つけ難いほどです。

しかし、特定の光の波長を通すナローバンドフィルターを使用した、ナローバンド撮影をはじめるなら、 モノクロセンサーが用いられた冷却CCDカメラをお勧めします。 カラーセンサーのデジタル一眼レフカメラを使うと、感度が低く、撮影に時間がかかります。 また、最終的な合成作品の解像度も低くなってしまいます。


まとめ

Astro6Dを使って、実際に様々な天体や星空を撮影していますが、 キヤノンEOS6Dは、ノイズの目立たない優れたデジタルカメラだと思います。

画素数だけで言えば、キヤノンEOS5Dシリーズの最新機種の方が勝っていますが、 星空撮影用としては、画素数の増加によるノイズの発生量が気になるところです。 そのような点を考慮すると、現行のキヤノンのラインナップの中では、 EOS6Dが天体撮影に最も適したカメラと言えるのではないでしょうか。

天文ファンにユーザーが多いキヤノン製カメラですので、ネット上の情報も多く安心して使用することが出来ます。 天体望遠鏡メーカーの純正パーツも豊富に揃っており、接続パーツだけでなく、 ショップオリジナルのパーツを使って撮影を楽しむことが出来ます。

キヤノンEOS6D MarkIIが発売されて以後は、中古市場で程度の良い、 安価なEOS6Dが店頭に並ぶようになりました。 天体撮影用に改造する場合は、価格が下がった新品だけでなく、中古ショップで掘り出し物を探してみるのも面白いのではないでしょうか。

キヤノンEOS6D
キヤノン EOS6D

キヤノンEOS6Dは、2012年11月末に発売開始された35ミリフルサイズデジタル一眼レフカメラです。 発売当初は、「EOS5DMarkIIの廉価版が登場した」ということだけで、それほど注目を集めませんでしたが、 ノイズが少ないという噂が広がり、天文ファンに注目されるようになりました。

はじめは星景写真撮影用として人気が出ましたが、徐々にフィルターを換装して天体写真を楽しむ方が増えてきました。 2017年現在でも人気のあるカメラで、天文雑誌のフォトコンテストでも、このカメラで撮影された作品がよく登場しています。

最近は、ニコンD810Aにシェアを奪われつつありますが、本体価格が安く、 天文改造しても15万円前後に収まるので、これから本格的に天体写真撮影を楽しむ方に適したカメラでしょう。 後継機のEOS6DMarkIIも登場しましたが、しばらくの間は、人気機種として支持されていくと思います。

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キヤノンEOS6Dのスペック

名称 キヤノンEOS6D
有効画素数 2020万画素
撮像画面サイズ 35ミリフルサイズ(35.8x23.9mm)
記録メディア SDカード
連続撮影枚数 最高4.5コマ/秒
ファインダー視野率 97%
常用ISO感度 ISO200〜25600
液晶モニター 3.0型ワイド
重量 約755g(本体のみ)

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