ビクセンSXD赤道儀の使用感
私はこのビクセンSXD赤道儀を2007年夏に手に入れて以来、 ビクセンED103S天体望遠鏡と組み合わせて、天体観測や写真撮影に使用しています。
また、トップヘビーになりますが、タカハシのTOA130望遠鏡を載せて、 月や惑星の気軽な観望にも使用しています。 小型でコンパクトなのですが、ピラー脚で使用していることもあるためか、 想像していたよりも安定感がある赤道儀です。
ビクセンSXD赤道儀の概要
ビクセンSXD赤道儀は、ビクセンSX赤道儀の上位モデルとして2007年に登場しました。 外観自体はあまり変わりませんが、赤経と赤緯軸に高精度切削された肉厚スチール材、 回転軸にはベアリングを採用して、安定感と高剛性化を測った赤道儀です。
剛性アップのために素材を見直したので、重量はSX赤道儀の6.8キロから8.8キロへと増えています。 また、別売りだった極軸望遠鏡が標準装備され、より天体写真撮影向けの赤道儀へと 生まれ変わりました。
どちらかと言えば、SPD、GPD、GPD2赤道儀と続く、ビクセンのデラックス型赤道儀の最新版という位置づけだと思います。 今までGPD2で撮影されてきた方のリプレイスメントとしての役目も担っているSXD赤道儀です。
組み立てやすい赤道儀
ドイツ型赤道儀には、天体望遠鏡とのバランスを取るための、バランスシャフトとウェイトが必要です。 このビクセンSXD赤道儀のバランスシャフトは、タカハシEM200赤道儀のように、赤道儀内に収納することができるタイプです。 この機能のお陰で、シャフトの取り付けや取り外しの手間が減り、赤道儀を遠征撮影に持ち出す方には大変ありがたい装備です。
また、赤道儀の駆動モーターが、ウェイト寄りに取り付けられているため、バランスウェイトが少なくて 済むというメリットがあります。一番上の写真でも、タカハシTOA130望遠鏡を2.8キロと3.7キロの ウェイトだけでバランスを取っています。 赤道儀の負担を減らせるので、優れた設計レイアウトだと思います。
スターブック
SXD赤道儀には、ビクセンの新しいコントローラーSTARBOOKが付属してきます。 カラー液晶画面とわかりやすい操作ボタンが特徴のコントローラーで、自動導入や 星図表示、それにオートガイド機能の設定などがここから可能です。
このスターブックは、以前のスカイセンサーと比べると機能が限定されており、その意味では誰にでも使いやすく作られています。 逆言えば、スカイセンサーで細かい機能を使いこなしていたベテランの方には、物足りなく感じるかもしれません。
このスターブックコントローラーは、どちらかというと観望重視で作られているような印象を持ちます。 アライメントによる極軸の設定機能など、天体写真を撮る時にはオフにしたい時もあります。 スカイセンサーでは可能だった「極軸を合わせた赤道儀」といった補助機能が、使用できないのは少々残念です。 ただ、ビクセンの公式ページから、最新のドライバをダウンロードできますので、これからそういった天体写真時に 便利な機能も追加される期待感はあります。 是非ともそうしてもらいたいですね。
SXD赤道儀の追尾精度
自動導入機能とオートガイダーが全盛の現在では、赤道儀の追尾精度を問う声は以前と比べて小さくなりました。 実際、従前はカタログにも書かれていたピリオディックエラー(追尾精度を表す値)という性能表示は、 最近では見かけることがなくなりました。
気にする必要はないかと言われると、やはりユーザーは気になってしまうもので、 私も購入した赤道儀のチェックは必ず実施しています。 そこでSXD赤道儀のピリオディックエラーの量を実際に測定してみました。
その結果は±9秒程度で、予想していた以上によい値です。所謂、「当たり赤道儀」だったのかもしれません。 ただ、このピリオディックエラーの量というのは個体差や測り方によっても値が変わります。 ですので、目安程度に考えておいた方が良さそうです。
なお、最近の自動導入赤道儀は、モーターを高速で回す必要があるので、ギアの遊びの量が多く、 ピリオディックエラーは多めのようです。 今のデジタル時代の赤道儀には、オートガイド時のレスポンスの方が大切でしょう。
SXD赤道儀の極軸望遠鏡
ビクセンSXD赤道儀には、右の極軸望遠鏡が標準装備されています。時間と日付を合わせると、北極星の導入位置が示される 時角計算の必要ないタイプです。水平出しに必要な水準器も極軸望遠鏡部分に設置されています。
この極軸望遠鏡は6倍20mmで南北対応のモデルです。暗視野照明装置も内蔵されており、スターブックの電源を入れると照明が点ります。
北極星の導入手順としては、まず観測地の経度補正目盛りを合わせます。その後に水準器を回して極軸の水平を出します。 それから極望を回して、時間と時刻を合わせてから北極星を導入位置に導入します。
オートガイダーとの接続
SXD赤道儀のスターブックには、オートガイド端子が備え付けられています。 接続端子はRJ11ですので、SBIG社等の市販オートガイダーに接続することができます。 限定販売されていたビクセンのAGA-1オートガイダーも接続できますが、この場合はマニュアルに従ってジャンパーピンを変更する必要があります。
また、オートガイド時のモーター修正速度は、スターブック上で変更することができます。 恒星時の0.1倍というように変更できますので、使う撮影光学系に適した数値に設定可能です。 良好なガイドを得るためには、自分の光学系に合わせて、いろいろな数値で試してみるのがよいでしょう。
SXD赤道儀を使ってみて
SXD赤道儀を使い始めて数年経ちますが、自宅での使用率の高い赤道儀になっています。 私の場合、天体観測する時には毎回、機材の設置・撤収が必要ですので、 軽くて組み立てが楽なSXD赤道儀は助かります。
主にSXD赤道儀にED103S望遠鏡やTOA-130望遠鏡を載せて、月や惑星を気軽に観望しています。 ただ私のSXD赤道儀はピラー脚仕様なので、移動撮影時には三脚仕様がよかったかなとも思っています。
SXD赤道儀の欠点としては、モーターのレスポンスがあります。 この赤道儀の駆動回路にはDCモーターが使用されていますが、 この駆動回路は昔ながらのステッピングモーター仕様の赤道儀に比べると、 ボタンを押したときの動作のレスポンスが若干遅いです。
赤道儀の仕様なので致し方ないところですが、 このDCモーター独特の動きが苦手な方には、お勧めしづらい赤道儀です。 具体的には、星を見ながらモーターを動かすと、ククッと星が動きます。 また、モーターの動作音も大きめです。 恒星時追尾中も「ジジジッ」とモーターが常に鳴っており、自動導入を始めると「ガー」という音が鳴り出します。
一方、天体撮影に使ってみると、オートガイダーを用いた時の追尾は悪くなく 、ED103Sを使って天体写真を撮ってみても星が綺麗に丸く写ってくれました。 ただ鏡筒の前後左右のバランスが悪いとエラーを頻発することがありますので、 追尾の状態がおかしいなと思ったときは、その辺りのバランスをチェックしましょう。 この赤道儀まわりのバランスは、他の赤道儀でも同じく重要なので、 天体写真を撮るときにはその点を気をつけたいところです。
SXD赤道儀にはスカイセンサーのような「極軸を合わせた赤道儀」というモードがありませんので、極軸を正確に合わせても、 その後にアライメントを行うと、その情報に基づいて赤緯モーターが補正動作を行い続けます。 これを避けるためには、アライメントを解除するしかありません。 私は自動導入後に電源を一度切ることでこれを回避しています。 メーカーにはこの問題をファームアップデートで改善して欲しいところです。
ところで、SXD赤道儀の最大搭載重量は15キロということですが、 天体写真撮影用途でしたら、搭載重量は10キロ程度までにしておいた方が無難だと思います。 観望用に合計13キロ程度の重さがあるTOA130望遠鏡を載せていますが、 少し風が吹くと揺れる為、この組み合わせで撮影を行うのは難しいと思います。
ピラー脚について
SXD赤道儀に私が使っているピラー脚は、右の写真のような形をしています。 サイズは記載の通り、高さが850mm、脚の開脚半径が450mm、分割できるピラー柱の長さが650mmです。 またピラー柱の太さ(直径)は約114mmです。
見た目は全体としてスマートで、重さもタカハシ製のピラーと比べると軽く作られています。 カタログによれば重さは13キロということです。
写真のピラー柱に1つネジが写っていますが、このように上下2ヶ所、それが周囲3点、 合計6ヶ所で、ネジを使ってピラー柱と脚部分を固定するようになっています。 ネジはM8ネジが用いられています。
SXD赤道儀のバランスについて
SXD赤道儀の赤経軸は、クランプフリーにしても少し抵抗感があって動きが渋めです。 これは、クランプフリーにすると、軽くくるくる回るタカハシ赤道儀のEM200赤道儀とは大きく異なる点です。
クランプフリーの動きが渋めなので、軽い天体望遠鏡をSXD赤道儀に載せた時は、バランス感がわからず しっかりとバランスを取るのが難しくなります。 こうしたときには、手で軽く回して動きの重さを比べてみるとよいでしょう。 ただし、くれぐれもクランプフリーの状態で行ってください。
また、それでも分からないときには、私はクランプフリーの状態でモータードライブを回して確認しています。 クランプフリーでモーターの力をしっかり伝達させるためには、バランスが合っていなければなりません。 モーターを動かしても赤経軸が上手く動かないときには、バランスがずれていると判断して、バランスの取り直しを 行っています。これは私独自の方法ですので、上手くいくかどうかわかりませんが、バランス調整に悩まれている方は一度 試してみてはいかがでしょう。
なお、クランプフリーの固さは個体によって異なるようです。 あまりに動きが渋い場合には、保証期間が残っている間にメーカーに点検に出した方がよいでしょう。
SXD赤道儀のモーター
SXD赤道儀に鏡筒を一本だけ載せての観望や、冷却CCDカメラを使ってのセルフガイド撮影の時はそれほど気になりませんでしたが、 撮影鏡筒とガイド鏡を並列に載せてオートガイド撮影すると、赤緯方向にエラーが出てしまうことがありました。 左右のバランスをしっかり取れていないことが大きな原因だと思いますが、使われているDCモーターが非力なのかもしれません。 そこで、赤道儀のカバーを外してみたのが右の写真です。
赤道儀のカバーを開けると、ギアボックスが付いた細いDCモーターが写真のように2つ縦に並んで付いていました。 SXD赤道儀に使われているのは、スカイセンサー2000PCと同じモーターと思っていましたが、どうやら違う種類のようです。
モーターの細かい性能自体はよくわかりませんが、素人目からはモーターは細くてトルクが弱そうです。 素性はよい赤道儀だと思いますので、このモーターをもう少しパワフルなものに交換できれば、撮影時の信頼性が向上すると思います。 できれば望遠鏡メーカーの方で、モーターのグレードアップ交換などをしてもらえるとありがたいですね。
SXD赤道儀の分解方法
オートガイド撮影の際、SXD赤道儀の赤緯軸の動きの反応が鈍い印象を受けたので、 赤道儀を分解して、赤緯ギアのクリアランス調整を行いました。 以下にSXD赤道儀のモーターハウジングの分解手順をまとめました。
SXDマークがついたプレートを外す |
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固定ビスを外す |
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バランスウェイトの固定ネジを外す |
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バランスウェイト側のカバーを外す |
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内側のカバーを外す |
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コードを抜く |
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分解された状態 |
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分解された状態2 |
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赤緯モーターを取り外す |
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両軸モーターを取り外す |
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赤緯軸の調整ネジ 下側の2つのネジは、縦方向の調整用もしくはギアボックスの固定用でしょうか。 こちらのネジは、かなり強く締められていました。 |
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SXD赤道儀のギアボックス |
SXP赤道儀が登場
2011年の冬にSXD赤道儀の上位機種となる、ビクセンSXP赤道儀が発売開始されました。 このSXP赤道儀では、ベアリングの数を9個から15個に増やして、SXD赤道儀で不評だったクランプフリーでの動きの渋さ問題を解消しています。
また、SXP赤道儀の駆動モーターが変更されています。 ほとんどの機種にDCモーターが使われていたビクセン製赤道儀ですが、 新しいSXP赤道儀ではステッピングモーターに変更されています。 それとともに赤道儀のコントローラーも、フラッグシップ機のAXD赤道儀で使われている「スターブックTEN」に変更されました。 スターブックTENでは、極軸を合わせた赤道儀モードや、子午線通過での反転位置を設定できたりと、 より天体写真撮影で使い易くなっています
その他には、赤緯・赤経軸共により太い素材が使われて強度を増し、鏡筒取り付け方法はアリミゾ形式から、ネジ止め方式に変更されています。 モーターの変更と相まって、より写真撮影向きに変更されたといえるでしょう。 ただこれらの改良に伴い、価格がSXD赤道儀と比べて13万円ほどアップしているのが残念な点です。
ビクセンSXD赤道儀のスペック
以下にメーカーから発表されているSXD赤道儀の仕様を記載します。
名称 | SXDマウント |
赤経ウォームホイル歯数 | 180 |
赤緯ウォームホイル歯数 | 180 |
ウォームホイル径 | 72mm |
極軸望遠鏡 | 南北両用 時角計算盤付 6倍x20mm |
傾斜可能角度 | 0-70度 |
電源 | DC12V |
導入速度 | 最大1200倍 |
搭載重量 | 約15キロ |
本体質量 | 約8.8キロ |