ヘラクレス赤道儀 Hercules Mount
ヘラクレス赤道儀は、株式会社マゼランと河原鉄工株式会社が共同開発し、 天文ショップ国際光器が販売していたドイツ型の大型赤道儀です。
ヘラクレス赤道儀は、ペンタックスMS5赤道儀クラスの機材を使用する、本格天文ユーザーをターゲットとして開発されており、 開発時の紹介写真には、二つの赤道儀を並べて比較している様子が載っていました。
ヘラクレス赤道儀のモータードライブには、ビクセンスカイセンサー2000PCが使われていました。 そのため、ビクセンがスカイセンサーの製造を終了すると同時に、ヘラクレス赤道儀の販売は中止され、 現在は新品を手に入れることができません。 手に入れたい場合は、中古市場で探す必要があります。
ヘラクレス赤道儀の特徴
ヘラクレス赤道儀の一番の美点は、余裕のある搭載重量です。 推奨搭載重量は10キロから45キロですが、搭載できる最大の重量は60キロを誇ります。 これだけの余裕があれば、海外製の大きなリッチークレチアン望遠鏡でも載せることができます。
モーターの位置が鏡筒取り付け部の反対側になるようにレイアウトされているので、 バランスウェイトの量を減らせるのもヘラクレス赤道儀の美点です。
例えば、重さがプレートを含めて40キロ弱あるε250鏡筒を載せた場合でも、 バランスを取るためのウェイトは15キロ一個で済みます。 ペンタックスMS5赤道儀の場合ですと、同じ鏡筒を載せた場合、ウェイトは15キロウェイトが2枚に、8キロウェイトが1枚必要です。 バランスウェイトの量だけ見ても、機材の設置や撤収の際、使用者にかかる負担がかなり変わってきます。
重量が伝わるライン(重心位置)を考えてみても、ヘラクレス赤道儀は理想的な構造をしています。 横から見ると、ピラーに対して垂直に機材の重量がかかるようになっています。 これら点からしても、重い鏡筒を載せるという点では、よく考えられて設計されている赤道儀だと思います。
一方、残念な点もあります。 赤経側のクランプには出っ張りがあるのですが、子午線を超えて赤道儀が回転していくと、 クランプがモーターボックスと当たってしまいます。 そのため、子午線をまたいで10度程度までしか撮影することができません。 スカイセンサー2000PCには、子午線を超えると、モーターをストップさせる機能がありますから、 それを見越して赤道儀の設計をしていたのかもしれませんが、あまりよい特徴とは言えないでしょう。
次に、赤緯側のクランプにも問題があります。 赤緯側の回転は非常に滑らかで、クランプを閉めない状態では、触れただけで回ってしまうほど軽いです。 そこで、撮影中はしっかりとクランプを閉める必要があるのですが、クランプが硬く、手の力ではしっかりと締められません。
クランプ自体はスリ割り式の金属筒をバーで締め上げる方式なのですが、この大きな金属筒を手だけで締めるのは至難の技です。 特に重量級の鏡筒を載せている場合には、しっかりと締め上げたい部分です。 そこで六角レンチを使って使って締め上げるように変更しました。 今後、何かよい方法が見つかったら、改造したいと考えています。
赤道儀のモーター
ヘラクレス赤道儀のモーターには、ビクセンのスカイセンサー2000PC用のモーターが用いられています。
GP赤道儀をはじめとした小型赤道儀と同じモーターで不安に感じましたが、実際に使ってみると、 問題なく自動導入していく姿に驚きました。 こうした点を考えると、ヘラクレス赤道儀の基本的な造りはよいのかもしれません。
しかしやはり非力な点は否めず、バランスを崩すとモーターが脱調することがありました。 そこでモーターを取り替え改造していくことになるのですが、それについては別の機会にお話するつもりです。
交換してしまってから書くのもおかしいですが、スカイセンサー2000PCでの使い勝手には満足していました。 実際これでいくつも写真を撮ってきましたし、脱調が起こらないときにはしっかりと自動導入して、追尾してくれていました。 バックラッシュも比較的少なく、オートガイダーとの相性も良い赤道儀でした。
ピリオディックモーション
最近はオートガイダーを使った天体撮影が一般的になったので、それほど気にする必要はありませんが、 赤道儀の機械的追尾精度は、やはり気になるところです。 そこで、ヘラクレス赤道儀のPEモーションを撮影・測定してみました。
測定結果は右上の画像の通りです。この結果からすると、私のヘラクレス赤道儀のピリオディックモーションは±7秒ほどのようです。 なお、比較に使った二重星はアンドロメダ座γ星アルマク(離隔約9.8秒)です。
当時のカタログによれば、ヘラクレス赤道儀のピリオディックモーションは、±3秒と書かれており、 ペンタックスMS-5赤道儀と同等ということでした。 さすがにそこまでの精度には達しなかったものの、長焦点撮影でも安心できる精度は出ているようで安心しました。
ヘラクレス赤道儀の極軸望遠鏡
ヘラクレス赤道儀には極軸望遠鏡がはじめから内蔵されています。 この極軸望遠鏡は6倍のもので、タカハシEM-200赤道儀のような早見形式になっています。 以前タカハシからEM-1S用として販売されていた極軸望遠鏡と同じ物ではないかと思っています。
極軸望遠鏡の接眼部側にはタカハシのリングレベルが取り付けられていて、このレベルを使って水平を出します。 そして、極軸望遠鏡の視野内に表示されているスケールを回して月日と時刻を合わせた後、 北極星の導入場所にこぐま座のポラリスを持ってきます。
極軸望遠鏡には、明視野照明装置が付けられているので、暗い場所でも快適に極軸合わせをすることができます。 しかし、経度補正目盛りが入っていないため、撮影する場所が変わったら、自分でその分を考えて補正する必要があります。 使い易い極軸望遠鏡だけに、この点は残念です。
ステッピングモーター化したヘラクレス赤道儀
現在私のヘラクレス赤道儀は、モーターをステッピングモーターに交換し、 FS2という汎用モータードライブで駆動させています。 交換した理由は、重量級の機材を載せたときに、時折脱調が起こったためです。 モーター交換にあたりましては、Orcaさんをはじめ、多くの方のお世話になりました。
ステッピングモーターに交換してからは、自動導入の最高速度が遅くなりましたが、 マイクロステップ駆動回路のお陰で、高倍率で惑星を観望しても振動などが感じられなくなりました。
また、約40キロの重さがあるε-250や、Mewlon-300CRを搭載しても脱調は生じず、 安定して追尾できるようになり、信頼性が大幅に向上しました。 オートガイドのレスポンスが更に向上したので、Mewlon-300を使った系外銀河撮影にも愛用しています。
参考までに、ヘラクレス赤道儀のモーターハウジングの写真など を別ページに掲載していますので、ご興味がございましたらご覧下さい。
ヘラクレス赤道儀の仕様
ヘラクレス赤道儀のスペック(販売当時のデーターです)を以下に示します。 製造していた当時の資料を基になるべく詳しく記載しました。
名称 | ドイツ型高速自動導入赤道儀 ヘラクレス |
コントローラー | ビクセン製スカイセンサー2000PC メーカー純正対応 |
モータードライブ | 赤経・赤緯共12VDCサーボモーター 2基 |
導入速度 | 最高280倍速、中速1〜99倍速 低速0.1〜2倍速 |
消費電力 | DC12V 最大2A |
ウォームホイール径 | 158mm |
軸径 | 赤経60mm/赤緯50mm |
赤経ギア | 195枚(合成585枚) ウォームホイール全周微動 アルミ青銅製 |
赤緯ギア | 195枚(合成585枚) ウォームホイール全周微動 アルミ青銅製 |
駆動ギア | ヘリカル三次ギアシステム 専用特注品 |
ベアリング数 | 12個(各軸6個) ※大型テーパーローラーベアリング使用 |
ねじれ指数 | φ400−60kg搭載時で0.005度以下 |
搭載重量 | 最大60kg程度(不動点より150mm時) |
追尾能力 | 焦点距離1000ミリで3分露出を点像 |
PEC | ±3秒以下(工作値) |
追尾分解能 | 390PPS |
極軸望遠鏡 | 南北両用6倍x16ミリ 据付精度5分以内 時角計算板付明視野照明装置付 |
極軸高度微動 | 15度〜45度 |
本体質量 | 45キロ 2分割式 |
ピラー質量 | 20キロ 軽量アルミピラー |
赤緯バランス | バランスウェイト無しで10キロを同架可能 |
鏡筒取り付け部分 | タカハシP=35mmM8、ペンタックスφ80−M8×4 |
販売価格(2003年当時) | ¥998,800 |
ピラー脚 単体価格 | ¥134,400 |
バランスウェイト価格(5kg) | ¥18,000 |