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ビクセンED103Sのレビュー

ビクセンED103Sは、天体望遠鏡メーカーのビクセンが製造していた屈折式天体望遠鏡です。 対物レンズにはEDレンズが用いられ、諸収差を良好に補正しています。 軽量で持ち運びしやすい鏡筒なので、天体撮影用としてだけでなく、 友人が来たときのミニ星空観望会など、いろいろな場面で活用している望遠鏡です。

ビクセンED103S天体望遠鏡

ビクセンED103Sの概要

ビクセンED103Sは、星の光を集める対物レンズに、 EDレンズ(S-FPL53)を用いた、2枚玉EDアポクロマート屈折式天体望遠鏡です。

ED103Sは、2004年末に発売が開始された天体望遠鏡です。 従来機種のビクセンED102SWTを改良したモデルで、 デジタル撮影時に生じる青にじみを押さえた、新しい設計のレンズが使われています。

天体望遠鏡本体の形は、ホワイト塗装のシンプルな屈折望遠鏡で、 赤いVixenのロゴマークと、フードに走る青いラインが外観のポイントとなっています。 フードは引き抜き式で簡単に取り外すことができます。 フードを外すと、2枚玉対物レンズが入っているセルが、鏡筒にねじ込まれているのが確認できます。

最近の小型屈折望遠鏡と同様、対物レンズには、光軸修正装置は設けられていません。 小型のレンズは比較的軽く、工場内での組み立て誤差も少ないので、光軸はずれないという考えでしょう。 実際、私もED103Sの光軸も合っていました。

持ち運びしやすい鏡筒

ビクセンの天体望遠鏡全般に言えるのですが、このED103S鏡筒もとても軽く、3.6キロしかありません。 キャリーハンドルが鏡筒バンドに付属しているので、女性でも片手で持ち上げて、手軽に持ち運ぶことができるでしょう。

赤道儀への取付もアリガタアリミゾ接続が採用されていて、ワンタッチで取り付けることができます。 夕方、自宅に帰ってから重い天体望遠鏡を設置するのは億劫になりますが、 このような軽く、設置しやすい機材なら、気軽に観望を楽しめるので重宝しています。 友人とのミニ観望会や、家族との月や惑星観察にもよく使用しています。

コントラストの高い像

木星 鏡筒内には絞り環(バッフル)が3枚設けられ、丁寧にツヤ消し塗装がされています。 そのため、月を覗いてもコントラストは良好で、EDアポクロマートらしい色収差のないスッキリした像を楽しめます。

気流の良いときに高倍率で恒星を覗いても色収差はほとんど感じられず、特に青ハロは皆無に感じました。 焦点内外像も対称に近く、光学系の性能の優秀を感じさせてくれます。 タカハシFC-100Dとの比較でも甲乙つけがたい眼視性能で、 2枚玉EDアポクロマートとして優れた鏡筒と思います。

2枚玉EDアポクロマートとしては大変優秀なED103Sですが、 3枚玉のタカハシTOA130天体望遠鏡と比べると、色収差は若干多く感じられれます。 これは価格差もあるので、仕方ないところではないでしょう。

口径10センチの豊富な集光力を生かして、月のクレーターや惑星の観望も楽しめます。 月に望遠鏡を向ければ、小さなクレーターもよく分解しますし、木星の縞模様も確認できます。 10センチのEDアポクロマートなので比較的高価ですが、 この天体望遠鏡が一本あれば、月や惑星、また二重星の観測など、 それぞれを高いレベルで楽しむことができるでしょう(右上の画像はこの望遠鏡で撮影した木星の写真です)。

ED103Sの天体写真適正

オリオン星雲 別売りのレデューサーをED103Sにねじ込んで、星雲や星団の撮影を何度か行いました。 ED103Sとビクセン純正のレデューサーと組み合わせると、ED103S望遠鏡はF5.2(焦点距離533mm)と明るくなります。

F値が明るくなり、デジタル機材での天体撮影に使いやすくなりますが、 レデューサーで補正された星像は良いとは言えず、写野端の方の星は菱形に歪んでしまいます。

全体の星像の傾向としては、中心部は色収差が目立たず、すっきりした星像を結びますが、 画像周辺に近づくにつれ星像が扇状に広がり、倍率の色収差が若干目立つようになります。

しかし、ST2000XM冷却CCDカメラのような撮像素子サイズの小さなカメラなら、 写野端までシャープな星像を結んでくれます。 右の画像は、その組み合わせで撮影したオリオン星雲です。 画像クリックすると、ギャラリーの大きな画像が開きます。

純正レデューサーとの組み合わせ以外でも、 ボーグから発売されている汎用性の高いレデューサーと組み合わせてみても面白いかもしれません。 また、海外の天文雑誌Sky&Telescopeのホットプロダクト2010にも選ばれた「Astro-Tech 2" Field Flattener(AT2FF)」を使用すると、 周辺まで綺麗な星像を結ぶという情報もあります(これはフラットナーレンズですので焦点距離は短くなりません)。

ED103Sは、天体写真界ではそれほど注目されていない鏡筒ですが、取り扱いやすく、 補正レンズを工夫すれば、天体撮影にも使いやすい天体望遠鏡だと思います。

レンズセルのゴースト

ED103Sのレンズセル ビクセンED103Sは、2枚玉アポクロマート望遠鏡です。 2枚の対物レンズは、セルと呼ばれる鏡室に入れられ、固定されています。 それぞれのレンズの間隔は、一般的な小口径屈折望遠鏡と同じように、 3枚の錫箔をレンズの縁に挟むことで保持しています。

右は錫箔の部分を拡大した写真ですが、錫箔スペーサーがレンズ中心部に向かって、大きく飛び出しているのがわかります。 錫箔の出っ張りが大きいため、デジタル機材で星空を撮影すると、このスペーサー部分で光が遮られて、 反射望遠鏡の主鏡固定爪で起こるような星像の乱れが輝星に出てしまいます。 すっきりした星像が魅力の屈折望遠鏡だけに、これは残念な点です。

錫箔の出っ張りについては、現在市販されているタカハシ製望遠鏡では、ほぼ皆無になっています。 しかし、以前発売されていたタカハシFSシリーズでも、 機種によってばらつきはあるものの、同じように飛び出していました。

なお、ED103Sの上位機種のビクセンAX103Sでは、レンズセルの上に飾り環が乗せられていて、 錫箔の回折によるゴーストが生じないように改善されています。 ED103Sでも同じ構造を取り入れていただいて、よりすっきりした星像を結ぶように改善してもらいたいものです。

ED103S用の純正レデューサー

ED103S用レデューサー ED103Sをはじめとした2枚玉屈折望遠鏡は、中心部は色収差や球面収差が除去されてシャープな像を結びますが、 像面湾曲が発生するため、視野周辺に行くにつれて像が大きく呆けてしまいます。

これを補正するために使用されているのが、フラットナーやレデューサーと呼ばれる補正レンズです。 このような補正レンズを使用すると周辺星像が著しく改善するので、 デジタルカメラを使った天体撮影に広く用いられています。

ED103S用として、ビクセンからED(F7.7用)と名付けられたレデューサーが販売されています。 この補正レンズは、ED103Sだけでなく、ED81S、ED115Sにも使用できる汎用レデューサーで、焦点距離を約0.67倍短縮する効果があります。 比較的安価で手に入れやすいレデューサーですが、上記もしたように補正が十分ではないと思われ、 大きな撮像素子を持つデジタルカメラで撮影すると、写野周辺で像の悪化が目立ってしまいます。

接眼部のがたつき

接眼部アダプター ED103S望遠鏡に限らず、ほとんどのビクセン製天体望遠鏡の接眼部には、フリップミラーと呼ばれる光路切り替え式の天頂ミラーが付属しています。 このフリップミラーは大変便利なのですが、フリップミラーの2インチスリーブを差し込む先の、 接眼部アダプター(SX60→50.8AD)のクリアランスが大きいため、長時間使用していると、ガタが出てきてしまいます。

ビクセンは、デジタルカメラを使用して直焦点撮影する際には、フリップミラーシステムの後ろに拡大撮影アダプターを取り付け、 デジカメを接続するように推奨しています。 しかし、フリップミラーの後ろに重いカメラや接眼レンズを取り付けると、接眼部アダプターから生じるがたつきがより大きくなって、 しっかりと固定した状態で撮影することができません。
※レデューサーはネジ込みになるので問題ありません

これは、接眼部アダプター(SX60→50.8AD)の公差が大きいために生じている問題だと思います。 新しいロットではある程度改善されたという情報もありますが、 天体望遠鏡の使い勝手にも直結する部分ですので、できれば新規格のアダプターを販売して欲しいところです。

ビクセンSD103S 発売開始

2017年6月、ビクセンからED103Sの後継機「ビクセンSD103S」が発売開始されました。

EDレンズからSDレンズと名称は変更されたものの、SD103Sに使用されているレンズは、ED103Sと全く同じです。 変更されたのは、ドローチューブ内の絞りの大きさと位置です。 この変更により周辺減光が減り、35ミリフルサイズに対応したとビクセンはアナウンスしています。

SD103Sの発表と同時に、新しい天体撮影用補正レンズ「SDレデューサーHDキット」が発表されました。 従来のレデューサーと異なり、フラットナーレンズとレデューサーレンズを組み合わせた補正レンズで、 35ミリフルサイズ対応になっています。

SDレデューサーHDキットはSDシリーズ望遠鏡用ですが、ED103Sにも使用することが可能です。 ただED103SとSD103Sでは、ドロチューブ内の絞りの位置が異なるため、周辺減光の発生が大きくなってしまいます。

この問題を解消するため、ビクセンでは、ED103Sの絞りを交換するメンテナンスサービスも行なっています。 約7000円ほどの費用がかかりますが、改造サービスを利用すれば、SD103Sと同等の性能を楽しむことができるのでお勧めでしょう。

SDレデューサーHDキットについて

SDレデューサーHDキットをビクセンED103Sに取り付け、実際に天体を撮影してみたところ、 以前のレデューサーとは比べ物にならないほど、結像性能が向上していることを確認できました。

詳しい内容は、SDフラットナーHDとレデューサーHDの星像 に実際の撮影画像と共にまとめていますので、是非ご覧ください。

ビクセンED103Sのスペック

ビクセンED103S望遠鏡の仕様を以下に示します。

名称 ED103S鏡筒
有効口径 103mm
焦点距離 795mm
口径比 1:7.7
鏡筒径 115mm
鏡筒全長 820mm
重量 5.4kg(本体3.6kg)

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